身代わり聖女になったら、なぜか王太子に溺愛されてます!?
そのときだった。視界の端を黒い影が横切り、ヒヒィーンという甲高い叫び声が響いた。それが、馬のいななきだと気づいたときには、エリシアは地面に尻もちをつき、暴れる馬の姿をぼう然と見上げていた。
「どけっ! どかないかっ」
つややかな白馬にまたがる青年が怒鳴る。エリシアは恐怖のあまり身動きが取れず、その青年の気品あふれる勇ましくも美しい姿に気取られている余裕もなかった。
青年が強く手綱を引くと、宙を蹴っていた白馬の足が、かろうじてエリシアをよけて地面についた。
エリシアは、はあはあと肩で息をした。見事に鍛えられた美しい白馬。そのしなやかな足に踏みつぶされていたら、ケガだけではすまなかっただろう。
「大丈夫ですかっ?」
黒毛馬から飛び降りた別の青年が、エリシアの顔をのぞき込んでくる。これまたはつらつとした整った顔の茶髪の青年だった。
いまだに驚きで喉がつまって、言葉をうまく出せないエリシアがうなずくと、彼が手を引いて立ち上がらせてくれる。
「申し訳ありません。急いでいたもので」
「ビクターっ! 謝る必要はない。行くぞっ」
「しかし、カイゼル殿下、飛び出したのはこちらです」
エリシアはハッとして白馬にまたがる青年を見上げる。
(カイゼル様……? それじゃあ、この方が王太子……)
「見たところ、ケガをしている様子もない。娘にかまっている時間はないんだ。放っておけ」
カイゼルはよく見てもいないのにそう言うと、心配する様子も見せず、あからさまに顔を背ける。
「すみません。もし、おケガをしているようなら、王宮まで訪ねてきてください」
「いえ……、大丈夫です」
「娘もそう言っている。ビクター、はやく行くぞ」
ビクターはため息をついたが、エリシアに申し訳なさそうな顔を見せた後、黒毛馬にまたがり、すでに歩み始めていたカイゼルを追いかけていった。
(冷酷だっていううわさは本当なんだわ。嫌な人……。でも気にしてられないわ。はやく、大聖堂に行かなきゃ)
エリシアはカイゼルたちの姿が見えなくなると、彼らが進んだ道を追うようにふたたび駆け出した。
「どけっ! どかないかっ」
つややかな白馬にまたがる青年が怒鳴る。エリシアは恐怖のあまり身動きが取れず、その青年の気品あふれる勇ましくも美しい姿に気取られている余裕もなかった。
青年が強く手綱を引くと、宙を蹴っていた白馬の足が、かろうじてエリシアをよけて地面についた。
エリシアは、はあはあと肩で息をした。見事に鍛えられた美しい白馬。そのしなやかな足に踏みつぶされていたら、ケガだけではすまなかっただろう。
「大丈夫ですかっ?」
黒毛馬から飛び降りた別の青年が、エリシアの顔をのぞき込んでくる。これまたはつらつとした整った顔の茶髪の青年だった。
いまだに驚きで喉がつまって、言葉をうまく出せないエリシアがうなずくと、彼が手を引いて立ち上がらせてくれる。
「申し訳ありません。急いでいたもので」
「ビクターっ! 謝る必要はない。行くぞっ」
「しかし、カイゼル殿下、飛び出したのはこちらです」
エリシアはハッとして白馬にまたがる青年を見上げる。
(カイゼル様……? それじゃあ、この方が王太子……)
「見たところ、ケガをしている様子もない。娘にかまっている時間はないんだ。放っておけ」
カイゼルはよく見てもいないのにそう言うと、心配する様子も見せず、あからさまに顔を背ける。
「すみません。もし、おケガをしているようなら、王宮まで訪ねてきてください」
「いえ……、大丈夫です」
「娘もそう言っている。ビクター、はやく行くぞ」
ビクターはため息をついたが、エリシアに申し訳なさそうな顔を見せた後、黒毛馬にまたがり、すでに歩み始めていたカイゼルを追いかけていった。
(冷酷だっていううわさは本当なんだわ。嫌な人……。でも気にしてられないわ。はやく、大聖堂に行かなきゃ)
エリシアはカイゼルたちの姿が見えなくなると、彼らが進んだ道を追うようにふたたび駆け出した。