身代わり聖女になったら、なぜか王太子に溺愛されてます!?
 エリシアはすっかりサンドイッチを平らげると、ベッドを降りようとするカイゼルに声をかける。

「どちらへ行かれるんですか?」
「腹ごしらえも済んだからな、執務室で仕事だ。おまえは自分の部屋にでも戻れ」
「よろしいのですか?」
「三ヶ月はここにいるよう言ったはずだ」
「あ、いえ、殿下はもうお仕事されて大丈夫ですか? もう少し休まれた方が……」
「どこぞの娘のおせっかいで、すっかり良くなったようだ。ナイトローブなど不要だったが……、一人で着せてくれたそうだな。ビクターにでも手伝わせればよかったものを」

 カイゼルは終始不機嫌なまま、そう言う。

(ナイトローブは必要ないって……、いつも裸で寝てるのかしら。着せたから怒ってるのね、きっと)

 それにしても、あのときは必死だったとはいえ、大胆なことをしたものだ。

 エリシアは逞しいカイゼルの身体を思い出して、ほおをほんのり赤らめるが、けげんそうにする彼に気づいて、あわてて声を張り上げる。

「ビクターさんも還炎熱にかかっては困りますから」
「おまえはかかってもいいと思ってるのか」

 エリシアは一瞬沈黙した。

(……私を心配してくれたのかしら)

「私は還炎熱にかかったことがないんです。あれほどの患者たちを看ていてもかからなかったので、大丈夫だろうと思って」
「ほう。ノアム大聖堂の修道女たちでかからぬものはいなかったはずだが。あのリビアでさえも例外ではない」
「私が何かしたということはなくて……」

 疑るような目を向けられて、エリシアがおびえながら言うと、カイゼルは思案げに腕を組む。

「おまえの看病で治った患者が再燃しないのは、おまえが患わないのと何か関係があるだろうか」
「私に思い当たることは何も」
「そうだろうな。ただの偶然の積み重ねで、おまえは聖女と崇められただけの娘だ。しかし、偶然にしては、おまえの周りだけ奇跡が起きるというのもおかしな話だ」
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