身代わり聖女になったら、なぜか王太子に溺愛されてます!?
「私が何かしたということはありません……。聖女であると嘘をついたことは認めますが、王家を陥れようと画策したことも一度もありません。あのっ、カイゼル殿下……」

 滑り出した口は、考えるよりも先に動いていた。

(今ならきっと、フェルナ村へ戻りたくないって伝えられるわ)

 エリシアは心を落ち着けると続けた。

「私は両親を亡くし、財産もなく、村長の息子と結婚する道以外、生きるすべを失いました。結婚は……どうしても受け入れたくなくて、修道女になろうと決めて王都アベリアへ来ました。ここに来れば、どんな人も受け入れてくれるノアム大聖堂があると知っていたからです」

 リビアに会えば、すべてが解決すると思っていた。だから、必死に逃げてきた。

「還炎熱が流行っていることは、村を出るときには知りませんでした。リビア様にお会いできると思って大聖堂を訪ねましたが、サイモン副司祭と出会い、シムア教会で暮らすようになり、私は両親のいない世界で、ようやく居場所を見つけたような気持ちになりました。ですから、村へは帰りたくないのです。修道女になれないというなら、下働きのままでかまいません。どうか、どうか私を、シムア教会へ戻してくださいませんか」

 迷惑そうにこちらを見るカイゼルに、エリシアは早口でまくし立てた。しかし、彼は眉根を寄せただけだった。

「あ……、あの、殿下……」
「おまえ、ちょっと今、奇妙なことを言ったな?」
「えっ……」

(何……かしら。おかしなことは何も言ってないわ。何が気になったのかしら)

 エリシアは困惑しながら黙り込んだ。すると、いきなりカイゼルに腕をつかまれる。

「何を……っ」
「おまえも執務室へ来い。見せたいものがある」
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