身代わり聖女になったら、なぜか王太子に溺愛されてます!?



 石畳を踏みしめるひづめの音が、静まり返った大聖堂の前でぴたりと止まる。馬から降りたビクターが、門の前に駆けていき、王太子の到着を知らせると、にわかに入り口が騒がしくなった。

 カイゼルに続き、エリシアが馬車を降りようとすると、手を差し出された。見れば、カイゼルがエスコートしようとしてくれている。迷ったが、エリシアはその手を取った。ほんのり温かい手のひらはゴツゴツしていたが、優しく握り返してくる力はとても繊細だった。

「あ、ありがとうございます……」

 困惑しつつも、カイゼルを見上げると、彼はわずかにほおを赤くし、顔を背けた。

(照れ隠し……かしら。……まさかね)

「はやく降りろ。迎えが来ている」

 素っ気なく言うカイゼルに急かされて、エリシアがあわてて馬車を降りると、石段の上に司祭服の男が現れた。サイモンだった。

 カイゼルが歩み寄ると、柔らかな笑みをたたえたサイモンは、いつものように静かに頭を下げた。

「急ぎのご用とうかがいましたが、エリシアさんもご一緒でしたか。ルイ殿下もご回復され、すこぶるお元気になられたと聞き及んでおります。カイゼル王太子殿下におかれましても、ご壮健で何よりに存じます」
「うむ。あいさつはそのぐらいにして、時にサイモン、修道士のエリオン並びに、修道女のルルカ、マルナはどうしている?」
「……三人が、何か?」
「呼んでくれるか?」
「それは、はい。すぐにでも。ただ、今は看病に従事しておりますので、身支度を整えてから」
「かまわない。俺たちが還炎熱にかかる可能性の低いことがわかったからな」
「本当ですか?」
「連れてきてくれ。元気な姿を確認したら、すぐに帰るから安心しろ」

 サイモンは狐につままれた表情をしたが、それ以上は食い下がらず、一礼すると大聖堂の中へ急いで入っていった。
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