身代わり聖女になったら、なぜか王太子に溺愛されてます!?
「私は殿下が思うような令嬢としての生活はしたことがありません。この村にはもう戻らないと決心しましたし、シムア教会での生活に戻りたい気持ちが強いです。ですから……」
「その話はあとにしろ。まずは、ルーゼについて聞かせてもらおう」

 カイゼルは厳しい顔つきになると、ビクターのもとへ向かう。

「エリシアさん、家の中には何かありますか? 裏口の鍵は開いているようでしたが」

 ガレスから逃げ出したとき、鍵をかける余裕はなかった。あれから、ガレスが何かしただろうか。しかし、家財道具もない家に、思い残すものは何もない。

「家を出るときに、貴重なものは持ち出したので何もないはずです。それよりも、作業場は父が亡くなったあとに母と掃除しましたが、あまりよく確認したことはなくて」
「でしたら、作業場から調べましょう。ルーゼの香水の作り方がわかるかもしれません」
「香水の作り方……ですか」

 エリシアはほおに手をあてて考え込む。

 父はエリシアが手伝おうとすると、大変な作業だから部屋にいなさいと言って手伝わせてくれなかった。母は農作業を手伝うことはあったが、香水の作り方は知らなかっただろう。

「そういえば……、父はメモを書き留めていたはずです。ルーゼはそのまま食べてもおいしいですが、さまざまなものに作り変えて使えるものだからと、研究を重ねていましたから」
「なるほど。その成果を献上していたのだな。干ばつのあと、陛下はグスタフに王都へ来いと言ったのだが、新しい果物を探しに旅に出ると言って断った。気骨のある男だった」

 父はその旅先で、崖から転落して亡くなった。国王の申し出を断ったことは知らなかったが、王都で優雅に暮らす生活は望まなかっただろう。フェルナ村で、母とともに細々とでも暮らしていたかったはずだ。

「あれほどの探究心がある男だ。そのメモ書きに香水の作り方が記されている可能性は高いな。ビクター、作業場を探せ」
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