身代わり聖女になったら、なぜか王太子に溺愛されてます!?
 カイゼルに指示されるとすぐ、ビクターは自宅から少し離れた場所に建てられた作業場の扉に駆け寄った。

「これはひどい」
「何かあるのか?」

 顔をしかめるビクターに、カイゼルが尋ねた。

「鍵が壊されてますよ」

 ビクターの指差す先に視線を移す。古びた南京錠は壊れていた。

「ガレスのしわざかもしれません。私が逃げ出したから、手がかりを探そうとして」
「ほかにやりようはなかったのか」

 乱暴な男だ、とばかりにカイゼルがため息をつくと、ビクターは「確認してきます」と、作業場に踏み込む。同時にほこりが舞う。乾燥した土が、春の嵐で舞い込んだのだろう。

「うわぁ、すごい砂ですよ。足跡がないところを見ると、侵入されてはなさそうですね。この程度でひるむなら、村長の息子も大したことないですね」
「余計なことはいい。何か見えるか?」
「奥の方に棚がありますね。俺一人で見てきますっ」

 ビクターの声がけむる作業場の中から聞こえてくる。ガレスが入るのを拒みたくなるほど、砂ぼこりがひどいのだろう。

「エリシアはここで待て」

 中へ入ろうとすると、カイゼルに止められたが、エリシアは首を横に振った。

「私が見ればわかることもあると思います」
「普通の娘は汚れるのを嫌うはずだがな」
「私は普通じゃありませんから」

 ほんの少しむくれて言うと、カイゼルはおかしそうに目を細める。

「エリシアといると退屈しなくてすみそうだ」
「どういう意味ですか」
「ほかの者では経験できないことをさせてくれる。……なんというか、おまえといると死ぬまで楽しく暮らせそうだな」
「それは……褒め言葉なんですか?」

 あきれると、カイゼルは口もとに笑みを浮かべた。しかし、そのまま何も言わずに作業場へ入っていくから、エリシアも無言であとに続いた。
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