それは麻薬のような愛だった
「それにしても雫ちゃんが来るとは思わなかったよ。あ、ここでは杜川さんって呼んだ方がいいね」
「はあ…そうですね…」
「雑談を楽しみたいところだけど、一応仕事だからひとまず話を始めようか。日下部、資料を杜川さんに渡してくれる?」
「分かりました」
颯人に差し出された資料を受け取り、それを開く。微かに手元が震えてしまったのはどうしようもなかった。
あれだけ気まずい別れ方をしたのだ。こんな突然の再会で平静でいられる方がどうかしている。
冷や汗のようなものを覚えながら山中から伝えられる報告を聞き、受け取った資料に書き込んでいく。時折投げかけられる質問に答えながらも、なんとか動揺を抑え込み話を続けた。
「いただいた資料を確認したところ、特に税務上の処理に問題はありません。経費や領収書の内容も特に変わったものは無いようですね」
「最近は接待や盆歳暮のやり取りなんかもかなり減りましたからねえ。リモートで済むところは出張の必要も無くなりましたし、以前より楽になりました」
「そうですね…ではこちらの資料で試算表を作成します。今後のやり取りはまた小林の方から連絡させますので、よろしくお願いします」
「はい。こちらこそ」
最終確認のためもう一度資料をひとつひとつ確認していると、「杜川さん」と名前が呼ばれた。
「そろそろお昼ですけど、話の続きがてら一緒に昼食いかがですか?」
「へ?」
「日下部、お前も来いよ」
山中は全く考えの読めない口調でそう言い、颯人を誘った。時計を見れば正午手前で、思いの外時間が過ぎていた事に拍子抜けした。
「分かりました」
そんな気の重いことなど是非とも遠慮したかった。けれど思いの外颯人が了承を返したことで、3人でのランチが決まってしまった。