それは麻薬のような愛だった
何にも執着しない伊澄だが、いつかたった一人を選ぶ日が来るかもしれない。その時に選ばれるのは雫ではない。
そしてその時に、雫が伊澄をどう思っているかなんて分からない。昔のように傷付くのはもう嫌だ。
後回しにして取り返しのつかなくなった時に泣くくらいなら、今泣いて終わらせたい。
この体質が治る事は一生無いだろうが、一人で生きていくと決めた最初の道に戻るだけだ。その後の事は、その時考えよう。
「いい言葉だと思うよ。私もその座右の銘、借りようかな」
雫がおもむろにそう言うと、美波は驚きを隠す事なく声を上げた。
「えっ、どうしたの急に?朴念仁の雫にもとうとう好きな人できたの?確か交流会の時、三原さんと良い感じだったよね?」
「何言ってんの。あの人はどう見ても美波狙いだったでしょ」
「まじ?」
「みんな同じ事思ってると思うよ。聞いてみたら?」
「え〜私もしかしてモテ期来てる?」
「さあ、そうなんじゃない」
「ここに来ての塩対応!やっぱり雫は雫だ!」
わやわやと文句を言い続ける美波に、つくづく人を笑わせるのが上手い子だなと雫は思う。
山中という本心がよく分からない男より、美波という意中がいながらも大して面白くもない自分の話に真摯に付き合ってくれた人の良い三原という男の方が彼女には合ってるんじゃないかと感じたが、それは伏せておいた。
例えどんなにクソがつく男でも、好きになるのはやめておけと他人が外野から口を出す権利はない。
そう、誰にも。
どんなに酷い男でも、好きになってしまう気持ちは、どうしようもできないのだから。
その晩、雫は静かに烏龍茶を飲みながら伊澄に思いを伝える決意を固めた。