それは麻薬のような愛だった
けれど産むという選択肢をしたところで、きちんと避妊をしていたはずの伊澄が自分の子だと認めるだろうか。
伊澄の中では雫が男なら誰でも体を許すと思っている可能性も否定できない。
——それなら、堕す?
そう考えるたとき、咄嗟に浮かんだのは「イヤ」の2文字だった。
母性なんてそんな高尚なものじゃない。
せっかく授かった命なんだから、なんて綺麗事でもない。
ただただ、手放したくないと思ってしまった。
けれどそうなると、一人で産んで育てる事になる。
そんな事は可能なんだろうか。第一親にはなんて説明する?それより何より、
——いっちゃんは、どう思うんだろう…
こんな時でさえ伊澄の顔が浮かんでしまう自分に本気で嫌気が差した。
全て自分の責任だ。こうなる可能性だってゼロではなかった。あらゆるものから目を背け、向き合うことから逃げてきた自業自得の招いた結果。
こうなる前に、取り返しがつかなくなる前に、断ち切っておかなかった、自分のせいだ。
「…っ、」
ぽろりと目から涙が落ちた。
涙を流したのなんて二十歳のあの日以来だった。
一体それが何の涙なのか、頭の中がぐちゃぐちゃになった今の雫には冷静に考えれるだけの余裕は欠片も存在していなかった。
結局その日はずっと、まとまらない感情にずっと涙していた。