それは麻薬のような愛だった
「雫…本当に知らないんだ。他の女なんか眼中にねえ。大事なのは…愛してるのは、雫だけなんだ」
「……」
「頼む。顔を上げてくれ」
雫は言葉を返さない。けれどゆっくりと顔を見せ、案の定瞳には溢れんばかりの涙が溜まっていた。
「しず、」
「分かってるよ」
ようやく雫は言葉を発し、声に被せてきた。
「ちゃんと分かってる…。いっちゃんがお休みの日も家で仕事するくらい忙しくて、それでも平日は出来るだけ早く帰ってきてくれる事も。土日はずっと家にいるし、偶に遅く帰って私が先に寝てたら、絶対顔見に来ておでこにキスしてくれるのも、全部知ってるもん…」
「……」
改めて口にされると羞恥を感じて黙り込む。相当浮かれてないかと思うも、雫のぐっと涙を拭う仕草に我に返った。
「これだって、多分いっちゃんのこと好きな人からの嫌がらせなんだろうなって、頭では分かってるの。…けど、どうしても嫌で、イライラしちゃって…」
ぽつぽつと言葉を落とす雫に伊澄はふと思う。
これほど長い間体調の悪さが続けば精神が疲弊し、気落ちするに決まっている。ただでさえ妊娠中は自由に動けず心身ともに負荷がかかる。責任感の強い雫は何もできないことに負い目を感じているのだろう。
仕事においても繁忙期に入ったというのに体調の悪さからパフォーマンスが上がらず、残業もままならない。
心配だから休むか辞めるかして家に居ないか打診した事もあるが、家に居たところで何もできないし仕事に出ている方が気分が楽だと言われれば、雫に甘い伊澄はそうする他無い。
「ごめんなさい、いっちゃん…」
そこに今回の自分の失態だ。何とかして不安を取り除いてやりたい。しかしそれと同時に、雫の言動にかつての約束を思い出した。
「…言ったろ。俺がクソだと思ったら遠慮なく言えって」
以前に増して大分痩せてしまった身体に胸を痛めながら、伊澄は優しく言った。