それは麻薬のような愛だった

「我慢して耐えられるよりずっといい。こうも言っただろ、何を言われようが気持ちは変わらねえって」


焦る気持ちと同じくらい、密かに安心も感じていた。かつては気持ちを胸のうちに秘め、隠してばかりいた雫がきちんと感情を表に出してくれるようになった。

少しずつでも心を開いてくれているようで嬉しかった。

ようやく寄せられた雫の気持ちが離れていかないよう、伊澄は無意識のうちに腕に力を込めていた。


「ただでさえ体が辛いのに不安にさせてごめん。けど本当に心当たりが全く無いんだ。頼むから出て行かないでくれ」

「…いっちゃ、」

「勿論、早めに里帰りしたいっていうなら送り出す。けどそうじゃねえなら此処にいてくれ。…雫がいねえと、寂しいんだよ」


寂しい。そう素直に告げると雫の身体がぴくりと反応した。


「…ほんと?」


眉間の間に寄っていた皺が消え、いつもの穏やかな表情が伊澄を包み込む。視線を交わし、伊澄は迷いなく頷いた。


「どうせ全部バレてたんだったら隠さず言う。雫が心配だからっていうのもあるけど、俺が雫に会いたいから帰ってきてた。じゃなきゃ休日に仕事回してまで家に帰ろうなんて思わねえよ」

「…そっか…」


雫はぽつりと呟き、ゆっくりと伊澄の背に手を回した。


「いっちゃん、意外と寂しがり屋さんだ」


雫の言葉に伊澄は苦笑する。そうだなと言い、そして一息置いて続けた。


「それに…お前が俺だけの雫でいてくれるのも、あと少しだろ」

「…え?」

「だから…今のうちに出来るだけ長く、独り占めしておきたいんだよ」


雫の頑張りもあり子供の成長は順調だ。このまま何事もなく、あともう数ヶ月もすれば雫は伊澄の妻だけでなく母親になってしまう。

子供の誕生は当然楽しみだが、今のように雫が自分だけの女性で無くなる事に少し妬いてしまうのは、伊澄にはどうしようもできなかった。

そんな自身の独占欲の強さに呆れ返っていると、雫がクスリと笑った。顔を落として見れば、雫の瞳からはまた涙が流れていた。

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