それは麻薬のような愛だった
翌日、雫に見送られ仕事へ出向いた伊澄はデスクに着くなり仕切りの向こう側に周りそこに座っていた女に声をかけた。
「輿水、今いいか」
輿水と呼ばれた女は驚きで目を開き、戸惑いながら言葉を返す。
「えっ?はい、何でしょう…」
明らかに訝しげに視線を向けてくるのも仕方がなく、伊澄は仕事の依頼以外でパラリーガルである彼女に何かを話しかける事はしないし、その大体が「これ頼む」などのひと言で終わることが多い。
故に突然話しかけられてのこの反応は至って正常だが、伊澄にとっては至極どうでも良い事だった。
自身の懐から昨夜の喧嘩の原因となるものを汚いものでも触れるかのように摘みながら掲げ、無表情のまま問いかけた。
「これ、お前のか」
輿水の目が細まり、装飾の派手がましいそれを見つめた。
昨日の記憶を辿ったところ唯一裁判所へ赴いた際に輿水が同行していた事を思い出し、それ故に尋ねた。
しかし輿水はすぐに首を横に降り、「違います」と言った。
「私のでは無いですけど、見た事あります。おそらく総務の事務の子のものかと。昨日あっちのフロアに行かれませんでした?」
「あー…そういえば…」
「ブランドの限定品だって言ってた気がしますし、私達じゃそんな派手なもの客先に付けていけないので多分間違いないですよ」
「ならそいつに渡しといてくれ」
「は?私がですか?」
何で私がという顔を隠しもせず顔を顰める輿水に、伊澄は気にすることなくデスクの上に置いた。
嫌そうにしながらも一応上司からの依頼なので無碍にはできない輿水は仕方なくそれを手にしながら、ふと思うところを感じて伊澄を見上げた。
「天城さん、もしかして昨日、修羅場でした?」
「……」