それは麻薬のような愛だった
しかし何事にも予定外はつきもので、雫の陣痛が夜更けに来てしまった。本来の予定日より10日以上早い陣痛ともあって雫はパニックに陥っていた。
その結果すぐに無痛対応が出来ないというアクシデントが起こり、雫は何時間も陣痛に苦しめられることになった。
「雫…!」
地元に到着したばかりの伊澄がスーツ姿のまま陣痛室に飛び込んできたが、冷や汗をかきながら身悶える雫に伊澄の方が真っ青に顔を染めていた。
初産にしては早い進みだったが、その分痛みは激しい。結局伊澄が到着してから3時間ほど経った頃、ようやく元気な産声と共に我が子との対面を果たすこととなった。
「おめでとうございます。元気な女の子ですよ」
助産師からの言葉を何処か遠くに聞きながら、雫は渡された小さな子どもを抱く。達成感と疲労感で感極まって涙していると、ずっと手を握ってくれていた伊澄にそれを拭われた。
「頑張ってくれてありがとう、雫」
汗と涙でぐちゃぐちゃになっているであろうに、伊澄はとても愛おしいものでも見るように雫を見つめていた。そして隣でうとうととしている娘に視線を落とし「可愛い」と言葉を漏らした。
その後二人の娘は新生児室へ移動になり、雫も分娩室でしばらく休んだ後に病室へと移動した。
「寝てなくていいのか?」
看護師に体を綺麗に拭き上げてもらい、着替えを済ませ少しスッキリとした雫は横になってはいたが、一睡もしていないのに全く眠気がこず伊澄と話をしていると、不意にそう尋ねられた。
「うん。なんだか眠れなくて。アドレナリンが出過ぎて寝れなくなる人もいるみたい」
「辛かったら言えよ。無理だけはするな」
「ありがとう。確かに身体中痛いけど、お腹の重みがなくなってスッキリしたからそれはちょっと楽」
「週数の割にしっかり育ってたらしいからな」
「うん。本当に元気で…良かった…」
初期には切迫、月が経てばお腹の張りや妊娠高血圧症候群での入院など、色々あり過ぎて不安は尽きなかった。
何度も弱音を吐くくらい辛かったのに、無事に出てきた我が子を見るだけでそれまでの全部が吹き飛ぶくらい、嬉しかった。