それは麻薬のような愛だった
「ああ。本当に可愛かった。あとやっぱり女の子だったな」
「うん。お医者さんから多分って言われてたからお洋服作る時悩んだけど、当たってて良かった」
実のところ最後まで性別はあやふやだった。
退院着こそどちらでも構わなかったが、雫が用意したベビー服はフリルやリボンが付けられていたりと女の子らしいものばかりで、男の子だった場合は少し可哀想な事になるところだった。
「けど、私ずっと女の子な気がしてたんだよね」
「母親のカンってやつか」
「ふふ、そうかも」
横になっていた雫は喉の渇きを感じてサイドテーブルへ手を伸ばす。しかし伊澄が先回りしてストロー付きのそれを差し出してくれ、雫は寝たままそれを飲むことになった。
「ありがとう、いっちゃん。今ちょっと座るの辛いから助かったよ」
「いや…寧ろ悪いな。明日までしか居てやれなくて」
伊澄は特別休暇を利用して帰ってきてくれているが、2日が限界だったらしい。けれど雫にとってはそれで十分だった。
大事な瞬間を二人で迎えられた事が、何よりの宝物になったからだ。
「気にしないで。赤ちゃんを一緒にお出迎えできたんだもん。私はそれで十分だよ」
「…そうか…」
「それよりごめんね、忙しいのに出生届とか色々任せることになっちゃって」
「そんな状態で動ける訳ないんだから、俺がやるのが当然だ」
そう言って伊澄は看護師から渡された出生届を手に取る。
「名前は、前に決めたものでいいな」
「うん、それがいい」
名前は二人でずっと以前から決めていた。女の子だったらこれがいいと、雫から希望した名前だった。
——天城紬。それが雫と伊澄が選んだ名前。
すれ違っていた二人の絆を繋いでくれた尊い存在。雫にとって、かけがえのない宝物だ。