それは麻薬のような愛だった


「紬ちゃん〜♡貴女は伊澄そっくりだけど本当に可愛いわねえ♡」


伊澄が出生届を提出し、正式に娘の名前が紬に決定した2週間後。雫は健診の為に再び病院を訪れ、小児科勤務の伊澄の母に挨拶がてら会いに来ていた。


「やっぱりいっちゃんに似てますよね?」

「そっくりよぉ。思い出すわ〜あの子もこんなに可愛い頃があったのね」


紬を抱きながら思い出に更けていた伊澄の母だったが、ふと思い出したように雫に話しかけた。


「そういえばこの後伊澄が来るんだったわね。産後ケアホテルだっけ。あんまり寝れてないでしょう?ゆっくりしてらっしゃいね」

「ありがとうございます」


眠れてないのは事実で、退院後からいざ生活が始まり慌しい日々を送っている。家事は全て雫の母がやってくれてはいるが、両親とも未だ仕事は現役で夜は頼れない。

両親が休みの日には紬を任せ仮眠を取らせてもらう事はあるが、小間切れの睡眠ではしっかりとした回復には至らない。

育児の壮絶さを、雫は早くも目の当たりにしていた。


伊澄の母と別れ、待合室で伊澄からの連絡を待つ。始発で帰ると言っていた伊澄は健診が終わる頃にこちらに到着し、車で迎えに来てくれる予定になっている。

首が据わっていない紬を横抱きにしながらゆらゆらと揺れていると、近付いてくる人影に目が向く。その人物と目が合うや否や、雫はパアッと顔を華やがせた。


「いっちゃん!」


声をかけると返される微笑み。伊澄は雫の側に寄ると「久しぶり」と再会の声をかけた。


「待たせて悪い。抱くの代わる」

「ありがとう」


器用な伊澄は紬と会うのは生後2日以来だというのにスムーズに雫の腕から紬を受け取る。聞けば空いた時間に動画を見てひと通りの世話を頭に叩き込んできたと言い、雫の胸は熱くなった。

伊澄は久しぶりに腕に抱く娘に視線を落としながら、柔らかな笑みを浮かべた。


「少し丸くなったな」

「うん。体重もしっかり増えてて順調だって」

「なら良かった。逆に雫はもう少し丸くなった方がいいんじゃないか」

「えー、せっかく人生初のモデル体重になれたのに?」

「まあ元気ならなんだって良い。それに前だって全然太ってなかったろ」

「いっちゃんはどっちが好き?」

「どっちも雫だからどっちも好き」

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