それは麻薬のような愛だった
まだ直座りが辛く円座クッションの上に座る雫を労りながら、伊澄は備え付けてあったカフェインレスのハーブティーを淹れる。
それを待つ間雫はテーブルに置いてあったサービス一覧を眺め、伊澄に話しかけた。
「ニューボーンフォトとかお願い出来るんだって。記念に残しておきたいな」
「いいんじゃないか。それにエステなんかも受けれるみたいだから行ってくればいい」
「ありがとう。けど出来るだけいっちゃんと紬と一緒に居たいからそれはいいかな」
「…そうか」
顔を綻ばせながらそう言い、伊澄は淹れたてのハーブティーを雫の前に置き自身の分と一緒に隣へ座った。
「雫…さっき言ってた話だが」
少しばかり声を落とした伊澄に視線を寄越す。また熱くて飲めないハーブティーのカップを握りながら、応えるようにゆっくりと頷いた。
「来年から1年…若しくはもう少し長く、アメリカに行くことになりそうなんだ」
「……」
突然の転勤話に目を開く。来年までは半年と少し。猶予はあるが、それでも驚きは隠せなかった。
「会社の方針でな。今後海外企業とのやり取りも増えるし日本でもITが強くなる事もあって、ライセンス契約が必須になる機会が多くなる。英語ができりゃなんとかなるが、それでも現地での資格がある方が圧倒的に有利だ」
「…それで、いっちゃんが行く事になったの?」
「ああ。うちの法務部から若手か何人か。向こうのロースクールに通うから最低でも1年は居なきゃなんねえ。その間だが…」
雫はようやく伊澄の言いたい事を理解した。会社の方針でもあるし、この話を雫に持ちかけてきたという事で、伊澄自身もそうしたいと思っているのだろう。
しかし雫は出産して間も無い。半年以上の期間があるとはいえ、見知らぬ地での子育ては不安に思うだろうと同行を頼むのを躊躇している。
雫が日本に残る事を選べば1年以上離れて暮らす事になる。
それならば、雫の選ぶ答えは一つだった。