それは麻薬のような愛だった
不意に伊澄が顔を上げ、視線が合う。至近距離で伊澄の顔を見るのは本当に久しぶりで、雫の胸は煩いほどに鼓動を打っていた。
「苦労もかけるが、あっちでは多分今みたいに何件も案件抱える事はしないだろうから今より家族の時間は取れると思う。出来る限り、雫と紬の側にいる」
「うん…ありがとう」
「…なあ、雫」
「なに?」
この雰囲気には覚えがあった。プロポーズをされて以来、ずっと雫の体がトラブル続きで伏せっていた事もあり、久しくこうした空気に触れていない。
伊澄の瞳は間違いなく熱を含んでいて、この後に続く言葉を、雫はなんとなく予想していた。
「…キス、していいか」
伊澄の口から漏れる甘い声は、脳を痺れされるには十分だった。
雫が頷くと同時、伊澄の顔が近づきゆっくりと触れる。10ヶ月ぶりのキスは、ハーブティーの独特な味がした。
軽いキスだけで離れ、互いを見つめ合う。伊澄は雫の目元を見ると、少しだけ辛そうな顔をした。
「あんまり寝れてねえみたいだな。隈ができてる」
「うん…やっぱり夜も泣いちゃうから」
「そうだよな。なら、今夜は俺が見るから安心してゆっくり休め」
「え…でも、いっちゃんだって仕事で疲れてるのに…。ベビールームで預かってもらえるよ?」
「俺はほとんど紬と触れ合えてねえから、寧ろ今夜は俺が面倒みたい。何かあればここのスタッフを頼るから、心配するな」
「いっちゃん…」
ありがとう。そう告げようとした時、寝室から紬の泣き声が聞こえた。咄嗟に立ちあがろうとした雫を制し、伊澄が寝室へ娘を迎えに行った。