それは麻薬のような愛だった
間も無くして紬と一緒に戻ってきた伊澄は、雫の隣に座り2人で愛娘を覗き込んだ。
紬は不思議そうな顔で両親の顔を眺めており、その眼差しは伊澄ととてもよく似ていた。
「おはよう、つーちゃん」
雫と雫の母だけが呼ぶ呼び名で声をかけ柔らかな頬をつつく。父親の大きな腕は安心するのだろうか、嫌がる事なく抱かれている。
「全然泣かないね。やっぱり紬もいっちゃんが好きなのかな」
「…紬《《も》》?」
伊澄は紬の小さな手に指を掴まれながら雫に目を向ける。その目は明らかに雫からの何かを期待していた。
「…や、えと、その…」
急に恥ずかしさを感じ、雫は頬を染めながら体を引いて距離を取る。しかし伊澄も負けじと目を逸らさず、離れた分だけにじりよった。
「そういや最近雫とこういう話出来てなかったな」
「そ、それは…」
「さっき俺は雫が居なくて辛かったって言ったけど…雫は?」
「っ、」
伊澄の甘い声と視線に反射的に逸らす。そんなの、会いたかったに決まってる。昔からずっと伊澄を好きだったのは雫の方なのだ。それは今だって変わらない。
「…私だって同じだよ。…でも、」
「でも?」
「……」
けれど自分は今、隈もできているし髪だって手入れが出来ず傷んだまま適当に結っているだけ。寝不足が続いて肌荒れもしているし、とてもじゃないが美麗な伊澄と平然と並んでいられる姿ではない。
意識をすると急に自身の散々な姿に落胆の気持ちが湧く。こんなぼろぼろな姿で「会いたかった」や「好きだ」なんてとてもじゃないけれど恥ずかしくて言えない。今の雫は前以上に自信を失くしていた。
そんな雫の様子を見た伊澄は、困ったように笑った。