それは麻薬のような愛だった
「えっ…」
雫はその場で硬直し、足を止めた。
何故伊澄がこの場に居るのか全くわからず見間違いを疑ったが、そこかしこで上がる黄色い声がそれを否定している。
状況を把握出来ずに固まる雫とは対象に、伊澄は雫を見つけると難なく人混みをすり抜け真っ直ぐに雫の元へと歩み寄った。
「雫」
脇目も振らず一直線に来た伊澄は雫の前に立ち、顔から視線を落としその手に持つものに目を向ける。
「なんか貰ったのか」
「あ…うん。ゲームの景品で…」
「へー」
聞いておいてさして興味もなさげにそう言ったが雫の華奢な体には大きくそれなりに持て余していたパネルを取り上げると、それを脇に抱え伊澄は雫の手を取った。
「外野がうるせえからサッサと帰るぞ」
「え、ちょっ…」
手を引かれ、雫は慌てながら一緒に歩いていた友人達に手を振った。友人達は「あら〜」とニヤニヤしていたが当事者となるとそうはいかない。
恥ずかしくて消えたい気持ちで俯きながら歩いていると、男の声で「天城!」と呼び止められた。
「お前来たばっかなのにもう帰んの?てかなんで今頃?そんでもってなんで杜川さん?」
話しかけてきた男は雫も見覚えのある顔で、よく伊澄と行動を共にしていた人物だったと思い出す。
かつての友人に直で話しかけられては無視はしづらかったのか、伊澄は足を止め明らかな不機嫌顔を向けた。
「別に同窓会に来たわけじゃねえ。俺はただ嫁を迎えに来ただけだ」
「い、いっちゃん!?」
大勢の前での爆弾発言に思わず声を上げる。一瞬ぽかんとしていた男だったが、雫の発した声を聞くなりブッ!と吹き出した。
「いっちゃん!?ちょ、おま、そんな名前で呼ばれてんの?」
「るっせ。呼び名なんてどうでもいいだろが」
「いやいやいや、天城だぞ?違和感しかねえよ。年中仏頂面のお前にそんな可愛らしいあだ名なんて似合わなさ過ぎだろ!」
「知るか。こちとらガキの頃から呼ばれてんだから今更なんだよ」
「は?ガキの頃?」
「こいつ幼馴染。で、今は俺の嫁」
「…っ…!」
もう勘弁してくれ…。と、雫は繋がれていない方の手で必死に顔を隠す。先程から主に女子からの視線が痛いし、ひそひそと陰口を言われているのを肌で感じる。
幼馴染?嫁?あんな地味な女が?そう言ってるのが、ありありと伝わってくる。