それは麻薬のような愛だった
「うわー…お前…幼馴染にまで手ェ出してたのかよ。まあ…でも、なんての…ドンマイ」
男は明らかにドン引き顔をしていた。けれどそれも仕方ない。
高校の頃の伊澄を知っていれば当然な上、当時付き合っていた女子が軒並み粒揃いだったのに対して結婚相手は地味な女。しかもその決め手は妊娠がキッカケ。
そうなれば、伊澄に傾倒する人物にはさぞ雫は悪い女に見えているのだろう。幼馴染という立場を利用して妊娠まで企て、結婚までこじつけた強かな女だと。
実際それほど的外れではない気がして、傷付きはしたものの雫は何も言わなかった。
伊澄に向けられる哀れみの視線と自身への敵意。やはりこうなるよなとズキズキと痛む胸を押さえて目を逸らす。
無意識に浮かんでしまった涙を堪えて雫は伊澄の手を解こうとしたが、大きな舌打ちと共に強く手を引かれ抱き寄せられた。
「ドンマイってなんだ。言いたい事あんならはっきり言えや」
その声は明らかに怒気を孕んでいて、雫でさえ初めて引くほど冷たく恐ろしい声だった。
「いや…だってお前…」
戸惑う男の声が雫の耳に届くも、その先は聞くことは無かった。爆笑していた男がこれほど動揺した声を出すならそれなりに伊澄は怒っているのだろうが、胸に顔を押し付けられた雫には伊澄の顔を見ることは叶わなかった。
伊澄は長いため息を吐き、苛々と続けた。
「手ェ出したのは事実だが、それでもこいつがなかなか振り向いてくれなかったから孕ませて結婚までこじつけた。…ここまで言えば分かるだろ」
「…お前、それ…」
「雫に惚れてんのは俺の方。分かったなら余計な口挟むな、鬱陶しい」
相当機嫌を損ねたらしい伊澄はそう吐き捨て、そのまま雫の肩を抱き出口に向かって歩き進めた。
車に向かう間もイライラとしていた伊澄だったが、それを雫にぶつける事はせず、歩調は緩やかだったし何より肩に触れた手はいつも通り優しかった。