それは麻薬のような愛だった

間も無くして伊澄実家に到着し、車庫に入れる伊澄を見送って先に家の中へ入らせてもらった。

聞いていた通り家は無人で、リビングで軽く彷徨う。動きやすい服に着替えようか悩んでいると間も無くして玄関の開く音が耳に入り、雫は伊澄を迎え入れる為に廊下に出た。


「いっちゃん、私着替えたいから部屋貸してもらえ…」


言葉の最後まで言う事なく、雫は伊澄に手を引かれる。そのまま2階へ上がり、かつての伊澄の自室へと連れて行かれた。

紬が生まれ、何度か帰省するうちに伊澄の部屋から彼の母の部屋になっていたその一室は客間に変わった。孫を溺愛する伊澄の母が、いつでも帰って来れるように整えてくれたらしい。


「座れ」


そこに入るなりピリついた雰囲気で言われ、雫は思わずカーペットの上に背筋を伸ばして正座した。伊澄も対面にあぐらをかいて腰を下ろし、雫を見据えた。


「…昔、」


ぽつりと呟くように吐かれた言葉に少しだけ拳を握る。今となっては過去の話。けれど始まりはこの場所だった。

伊澄は何を言おうとしているのだろう。そう思うと、雫の体は無意識に強張った。


「お前の気持ちを無視して、ここで関係持った事は…本当に悪いと思ってる」

「……」

「あの頃俺がクズだった事、否定はできねえし反省してる。…だからって訳じゃねえけど、聞いてくれ」

「いっちゃん…?」


伊澄の言わんとすることが見えず眉を寄せる。けれどその表情はどこか追い詰められているようにも見えて、雫はそれ以上は何も言えなくなった。

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