歪んだ月が愛しくて2
「……また、いなくなったと思った」
「、」
ビクッと、無意識に肩が跳ねる。
「お前がいなくなって、俺達がどんなに心配したか…」
「………」
……これは今じゃない。
カナはあの頃の話をしていた。
「もうあんな想いはしなくねぇんだよ…」
あの頃のことは文月さんから聞いた。
俺が家出したことで兄ちゃんとカナが凄く心配していたと。
それを文月さんの口から聞いた時は面白くなかったが自分でも迷惑を掛けた自覚があったから素直に反省したのを覚えている。
でもそれは兄ちゃんだけだよね。
だって文月さんは俺のことが嫌いだし、カナだって…。
『俺は一度だってお前を兄弟なんて思ったことはねぇよ…』
「、」
グッと下唇を噛む。
沸き上がる感情を耐えるように。押し殺すように。
そう努めてゆっくりと口を開く。
「……カナは、狡い」
その言葉にカナは目を丸くさせた。
「思ってもないこと言うなよ。今更そんなこと言われても困る…」
もう認めよう。
俺はカナに嫌われている。
あの頃の俺はその事実を受け入れるにはまだ幼くて癇癪を起こしは皆を困らせていた。
「……思ってないことって何だよ?俺が適当なこと言ってると思ってるのか?」
でも今は違う。
言いたいこと言うって決めたんだ。
「思ってるよ。だってカナは俺のこと嫌いじゃん」
真実を受け入れる覚悟は出来た。
「は、」
「もう大丈夫だよ。はっきり言ってくれて構わないから」
もう、あの頃の俺はいない。
泣きたいのに泣けない臆病な弱虫はもう消えた。
「お前…、何言ってんの?久しぶりに会えたと思ったら何意味分かんねぇこと…」
「誤魔化さなくていいから」
「っ、誤魔化してねぇよ!お前こそこっち見ろよ!俺の目見てはっきり喋れよ!」
カナは俺の肩を掴んで怒声を上げた。
そんなカナにムカついて俺も負けじと声を荒げる。
「じゃあはっきり言うけど、俺のこと兄弟じゃないって言ったのはカナだろう!忘れたのかよ!」
「、」
一瞬、カナは言葉を飲み込んだ。
「カナにとってあの言葉は気に留めるようなことじゃなかったかもしれないけど、でも…、俺にとっては家出したくなるくらい忘れられない言葉だったんだよ!」
俺も、狡いな。
家を出たのはカナのせいじゃないのに全部カナのせいにした。
「あの頃はカナに兄弟じゃないって言われて、信じられない気持ちと信じたくないって気持ちで頭ん中ごちゃごちゃだったけど、でも今は…」
彼等と出会って俺は少しでも変われただろうか。
沢山傷付けて、怒らせて、色々と心配させてしまったが、それでも彼等はこんな俺を見捨てないでいてくれた。
だからもう逃げない。
受け入れ難い残酷な真実であろうとも、取り返しの付かないことであっても、俺はもう逃げたくないんだ。
『大丈夫だ』
遠くの方で会長の声が聞こえた気がした。