歪んだ月が愛しくて2
「クッソ頭痛ぇ。思いっ切りかましやがったなこの石頭」
「あ、ごめん。そんなに痛かった?」
「痛ぇよ。……まあ、お陰で目が醒めたけどな」
「?」
カナは両手で顔を覆うと突然「あ゛ぁあああああ!!」と奇声を上げた。
「カ、カナ…?」
どうしよう。
カナが壊れた。
もしかして俺が頭突きしたせい?
……と思いきや。
「告白はなかったことにしない。俺はリツが好きだ。お前が兄貴のことを好きだって分かってても諦められなかった」
「………」
指の隙間から見えるカナの顔はまるで林檎のように赤く熟れていた。
その姿が昔のように幼くて可愛くて思わず抱き締めてしまいそうになった。
「返事」
「……ごめん」
カナは長い溜息の後「……知ってた」と苦笑した。
「……カナのことは好きだよ。でもそれは家族としてで恋愛感情じゃない。だからカナの気持ちには応えられない」
「そんなの端っから分かってたよ。ぶっちゃけ俺の気持ちを知っててくれるだけでいいし、それにお前が俺の気持ちをちゃんと受け止めてくれたから俺もケジメを付けたかった」
「ケジメ?」
「あの時の誤解を解きたい」
その一言で気付いた。
寂しかったのは俺だけじゃなかったんだと。
「あの頃は俺もガキで上手く言えなかったけど、確かに俺はお前と本当の兄弟じゃないって言われて嬉しかったんだ。本当の兄弟じゃなかったらお前に対する気持ちをなかったことにしなくていいと思ったから…。でも安易だった。そんなのは俺の独り善がりでお前の気持ちなんて全然考えてなかった。親父とお袋が死んで親戚連中に責められてたお前を守れないばかりか俺は自分のことだけしか考えてなかったんだ。そんな俺がお前に好かれたいなんて烏滸がましいよな、マジで」
「カナ…」
「でも、お前を傷付けて…、追い詰めて、やっと気付いた。ごめん…。今更謝っても許されないことだって分かってるけど、それでもやっぱりお前が好きだ。家族として、兄弟として、藤岡立夏って言う人間が好きなんだっ」
その言葉はまるで全てを許されているような感覚だった。
まさかカナの口からそんな言葉を聞ける日が来るとはあの頃は夢にも思わなかった。
そんな夢を見ることさえ許されないと思っていたから。