歪んだ月が愛しくて2



「だから、戻って来て欲しい」

「え、戻るって…」

「あの家はお前の家だろう。お前と俺と兄貴の3人の家だ。何の遠慮もいらない」

「そう、だけど…」

「お前に告った俺が気持ち悪いか?」

「そんなわけない」

「……じゃあ、兄貴に会いたくないのか?」

「、」



何も言えなかった。

否定も肯定も出来ない自分がもどかしい。



「その様子だと兄貴からの手紙は読んでないみたいだな…」

「手紙?」

「兄貴から段ボールが送られて来ただろう。あれと一緒に入ってたはずだ」



そう言えば転入初日に送られて来たものの中に手紙が入っていた。
何が書いてあるか怖くてまだ見てなかったっけ。



「……見た方がいい?」

「見たくないなら見なくてもいい。でも兄貴は近いうちにここに来る」



サラッと。

でもその衝撃は大きかった。



「な、で…」

「それも来てから話すと思う。だから俺の口からは何も言わない」

「………」



兄ちゃんが来るなんて何かあったとしか思えない。
でもカナの様子からして緊急事態ってわけではなさそうだ。



じゃあ何で?

何かあったからじゃないの?



それとも…、



「そんな顔すんなよ」



不意にカナの指が俺の前髪を上げて額に触れる。



「……未空だっけ?さっきの奴」

「うん」

「アイツに目付き悪いとか散々言われたけど、お前だって同じようなもんだろう」

「ん?」

「眉間の皺」

「え、どこ?」

「ここ」



グリグリと、カナの指が俺の眉間を押す。



「痛い、痛いって」

「だって直んねぇから」

「それやっても伸びないから」

「伸びたら余計に皺が出来そうだな」

「じゃあやるなよ」



フッと、カナはここに来て初めて笑った。
カナの笑顔を見たのは何年ぶりだろう。
父さんと母さんが亡くなってから一度だって見せてくれなかった。……いや、俺が見落としてただけか。
カナの想いも、優しさも、全然気付けなかったなんて兄貴失格だ。
やっぱり俺はカナの兄貴に相応しくないのかもしれない。



でも、それでも俺は父さんと母さんが残してくれた大切な者を守りたい。



嫌われていてもいい。

俺だけが大切に想っていればそれでいい。



(そう思っていたけど…、)



もうそんな風に自分の気持ちを誤魔化さない。

許されるならまた昔のような家族に戻りたい。



「リツ」

「な、に…っ」



ちゅっと、頬に触れる何か。

何かなんてすぐに分かった。



「油断し過ぎ」

「えっ、えぇええ!?」



カッと、顔が熱くなる。

カナは「煩い」と俺を一喝してむにっと頬を抓る。



「あんまり気抜いてると食っちまうぞ」

「っ!?」

「くくっ、変な顔」

「か、揶揄ったな!」

「揶揄われるお前が悪い」

「カナがグレた…」

「元からだよ」



カナの新たな一面。
俺の気付けなかったカナが今はそこで笑ってる。
変わり始めた関係は少しだけ気まずくて、くすぐったくて、ほんのりと頬に熱を感じた。


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