歪んだ月が愛しくて2
未空Side
「……結果オーライ?」
生徒会室の扉に耳を当てて室内の声を拾う。しかも4人揃って。第三者が見たら異様な光景に映るだろうな。
「そのようですね。始めはどうなるかと思いましたが未空が機転を利かせて2人きりにしてあげたお陰ですね」
「猿も空気が読めるようになったじゃん、偉い偉い」
「猿じゃねぇよ!」
「煩ぇ」
ハッと、尊に指摘されて慌てて口元を両手で塞ぐ。
そんな尊をチラッと横目で盗み見れば何とも言えない複雑な表情を浮かべていた。
「まあ、何はともあれ良かったじゃん。これでりっちゃんの悩みも一つ解消だな」
「うん!」
俺はヨージの言葉に素直に頷いた。
でもその横で尊と九ちゃんは険しい表情を崩さない。
「……それはどうですかね」
九ちゃんは静かにそう言った。
「どう言うこと?」
「立夏くんの心が少しでも軽くなればいいと思っているのは僕も一緒ですよ。でも太く根付いたものはそう簡単に消えてはくれない。そうではありませんか?」
「………」
「………」
「それは…」
そう言って九ちゃんは俺に視線を向けた。
俺が何も言えないことを知っているくせに態とそんな風に言う。
それが意地悪なのか優しさなのか俺にはちょっと難しい。
……でも消えない。
『アンタなんて生まれて来なければ良かったのよ!』
消えてくれない。
あの声が、あの人の顔が。
リカもそうなの?
俺がいつまでもあの人に囚われているようにリカも何かに囚われているの?
『償っても償いきれないものを背負っているのは立夏だけじゃない』
リカは何を背負っているの?
何を償わなきゃいけないの?
「誰しも…」
その声に反射的に顔を上げる。
「誰しも大なり小なり自分の中に真っ黒な染みを持っていて簡単には拭っても取れねぇもんだ。でも人間はそれに抗う力を持っている」
「抗う、力…?」
『―――お前を、迎えに来た』
ああ、眩しい。
あの日の光景が脳裏に過ぎる。
「何がアイツの幸せかなんて誰にも分からねぇよ。俺にも、お前等にも…。少なくとも今のアイツに必要なのは雁字搦めに縛って守ってやることじゃなくてアイツの重荷を一緒に背負ってやることじゃねぇのか?」
「………」
眩しいよ。
本当太陽みたいな人。
尊の言葉が俺の中にゆっくりと浸透していく。
あんな昔のことまで思い出すなんてどうかしてるな。
「幸せなんて胸張って言えなくていい。ただバカみたいに笑っていればいつかそれが板に付くだろう」
「……つまり、俺はリカを笑わせればいいの?」
「自分が正しいと思うことをすればいい」
「もし、それが間違ってたら…?」
「………」
尊はそれ以上何も言わなかった。
自分で考えろってことかな。
でも本当に分からないんだよ。
頼稀を傷付けて本心を聞き出したことも、リカとカナちんを2人きりにしたことも、俺がリカのために何が出来るのかも全然分からないんだ。
「一緒に背負う、か…」
教えてよ、何が正解なのか。
教えてよ、尊の本当の気持ちを。
……ねぇ、俺が気付いてないとでも思ってるの?