歪んだ月が愛しくて2
「それにしてもあの弟くんがりっちゃんラブだったとはね」
ヨージは「人は見掛けに寄らねぇな」とぼやくが、九ちゃんはそうは思っていないようだ。
「そうですか?結構分かり易いと思いますけど」
「え、九ちゃん知ってたの?」
「まさか。彼とは初対面ですよ」
「じゃあ何で分かるんだよ?」
「前例がありますからね」
「前例?」
「立夏くんに魅了された人間は少なくないと言うことですよ。傍にいればいるほどその効果は大きいと思いますし」
九ちゃんの視線の先にいたのは尊と………俺?
「あー…」
「だとさ」
「俺に振るな」
ヨージは俺と尊を交互に見てニヤニヤと憎たらしい顔をする。
そんなヨージの鳩尾を尊の肘が狙いを定める。
「俺に当たるなよ」
寧ろ当たってしまえ。
「どうやら思惑が外れたようですね」
「何のことだ?」
「立夏くんの背中を押したつもりがとんだライバルが出現したようですから」
「ライバル?あの弟がか?」
「随分前から立夏くんに想いを寄せているように見えますけど」
「フン、何がライバルだ。くだらねぇ」
「貴方ならそう言うと思いましたけど足元を掬われてからでは遅いですよ。彼は貴方が立夏くんと出会うずっと前から立夏くんと寝食を共にし一番近くで見守って来た存在なんですから」
どんなに頑張っても埋まらないものがある。
月日も、想いも。
九ちゃんの言葉で改めて思い知らされた。
「見守って来た?ハッ、放置してたの間違いだろう」
でも尊は違った。
「おや、怒ってます?」
尊は九ちゃんの質問に答えなかったが、その顔は「答えるまでもない」と言っているように思えた。
……これは怒ってるな、完全に。
顔に出過ぎだって。
まあ、その理由も何となく分かるけどさ。
『あの頃は俺もガキで上手く言えなかったけど、確かに俺はお前と本当の兄弟じゃないって言われて嬉しかったんだ。本当の兄弟じゃなかったらお前に対する気持ちをなかったことにしなくていいと思ったから…。でも安易だった。そんなのは俺の独り善がりでお前の気持ちなんて全然考えてなかった。親父とお袋が死んで親戚連中に責められてたお前を守れないばかりか俺は自分のことだけしか考えてなかったんだ。そんな俺がお前に好かれたいなんて烏滸がましいよな、マジで』
さっきの話を聞いてカナちんがリカにして来たことは何となく想像が付いた。
怒るなって言う方が無理な話か…。
リカのことなら尚更だよね。