歪んだ月が愛しくて2
「でもマジで藤岡くんは凄いよ!足速いし格好良いし!やっぱりアンカーは藤岡くんしかいないな!」
「褒め過ぎじゃね?」
「だって本当のことじゃん!」
「ありがとう。汐も格好良かったよ」
「えっ!?」
「格好良かったってさ。良かったね」
「ヨカッタネー」
「ヤ、ヤバい!俺もう死んでもいい!」
「じゃあそのまま死ねば」
「いつまでも浮かれてんじゃねぇぞ」
「汐のくせに生意気!俺だってリカに格好良いなんて言われたことねぇのに!」
「お前も黙れ」
「未空も嫉妬すんだな」
「嫉妬じゃない!」
「どっからどう見ても嫉妬だろうが」
「嫉妬じゃなくてヤキモチだもん!」
「「「「「一緒じゃねぇか(じゃん)!!!」」」」」
目の前で繰り広げられるお約束の光景をいつも通り一歩引いたところで傍観する。
何だかんだ言ってうちのクラスって皆仲良いよな。
俺なんて山田と話したの初めてなのに、自然と会話の中に入れてくれて。
やっぱり入学してから殆どクラス替えがないのが大きいのかな。それかC組のコミ力が異常なのか、どっちかだな。
そんなことを考えながら皆のやり取りを眺めていると、不意にどこからか音がした。
その音に耳を済ませると、今度はっきりと「にゃー」と聞こえた。
どこだ?
「…あ」
見つけた。
グラウンドの隅の草木からちょこんと顔を出したのは、あの時の白い子猫だった。
でも子猫はあの時と違って中々近寄って来ない。
それなのにその瞳と鳴き声が俺を呼んでいるように思えた。
「にゃあ」
もしかして怖いとか?
だったら顔出さなきゃいいのに。
「にゃー」
……これは来いって言ってるよな。
猫語なんて分からないが、多分そう言ってる。
鳴き声に引き寄せられるように一歩ずつ子猫に近付く。
すると子猫は短い鳴き声を漏らして草むらに隠れてしまった。
「あっ」
怖がらせた?
それとも呼ばれたと思ったのは勘違いだったのか?
だとしたら痛いわマジで。恥ずかしい。
「どうした?」
ビクッと、頼稀の声に思わず肩が跳ねる。
「何かあったのか?」
「………」
流石の頼稀も猫の気配までは読めないか。
「……ちょっと、用事」
「は?」
「あっちにスマホ落としたっぽいから探して来る」
「あ、おいっ」
俺は頼稀に嘘を吐いて子猫の後を追い掛けた。
嘘がバレるのは時間の問題だが、長居する気はないからすぐに戻れば大丈夫だろう。
「……下手クソ」