歪んだ月が愛しくて2
「チッ」
男は忌々しそうに俺を睨み付けて舌打ちする。
その直後、痺れを切らした男はくるっと身体を反転して足を進めた。
咄嗟に、俺は男を呼び止めた。
「あ、ちょっ、待って!」
でも男の足は止まらない。
「おいっ」
聞く耳を持たないとは正にこのことだ。
クッソ、ムカつくな。
「待ってってば!」
何度も何度も呼び止めても完全無視。
こうなったら強硬手段だ。
「こんのっ、人の話を聞け!」
「、」
俺は後ろから男の襟を掴んで強引に引き止めた。
やっと止まったと思いきやそんな俺の行動に男は眉を顰めて全身から不機嫌オーラを放出する。いや、最早殺気だな。
「……離せ」
「あ、ごめん」
パッと、男の制服の襟から手を離す。
「あー…さっきはごめん、何か無視した形になっちゃって。いきなり後ろから声掛けられて反応出来なかったんだよ」
「………」
男は目を細めて俺の一挙一動を観察しているように見えた。
そんな穴が開くほど見なくても別に怪しい者じゃないんだけどな。
「あの、俺別に怪しい者じゃないから。ここにはこの子を追って来ただけだし」
「この子?」
するとタイミングよく俺の足元から鳴き声が聞こえた。
「白…」
「っ、……こ、この子の名前?」
「ああ」
ああ、やっぱり。
そう言う名前付けるよな。
この見てくれじゃ当然か。
「じゃあ、この子はアンタの猫…」
良かった、勝手に連れて行かないで。
危うく誘拐犯になるところだった。
「違う」
「え、何が?」
「……俺のじゃない。ただ面倒見てるだけだ」
通りで毛並みがいいわけだ。
体型も痩せ細ってるわけじゃないし、ちゃんとした食事をもらっていたと分かって安心した。
「にゃあ」
「ん、どうした?」
「にゃー」
「……撫でろってこと?」
俺の疑問に対する返答はなかったが、もう一度子猫の背中に手を伸ばした。
すると子猫こと白はまた尻を突き出すような格好をして触れ触れと言っているように見えた。
「またケツ?ケツを触れってこと?」
どうしよう、分からない。
ああ、俺に猫語が理解出来れば…。
こう言う時に会長がいてくれたら解読出来たのに。
「……叩け」
「え、」
不意に男の言葉が頭上から降って来た。
叩け?
え、動物虐待?
「ケツじゃない。尻尾の付け根辺りを叩け」
「叩けって…」
俺、売られた喧嘩しか買わないんだけど。
「軽くだぞ」
「………」
半信半疑だったが男の言う通りに白の尻尾の付け根辺りをトントンッと優しく叩いた。
すると白はゴロゴロと喉を鳴らして気持ち良さそうに体を捩った。
「……気持ちいいの?」
「にゃあ」
マジか。
「凄い…。アンタって何者?猫使い?」
「は?」
「だってアンタの言った通りにやったら凄い気持ちよさそうにしてるから。猫のことよく知ってるんだ」
「……別に」
「でも可愛がってるんだろう、名前付けてあげるくらいだし」
「呼び難かっただけだ」
この人、誰かに似てる。
俺が言えたことじゃないがこのコミュ障具合といい、不器用なところといい、誰かに………あ。