歪んだ月が愛しくて2
頭から爪先に掛けてヒシヒシと感じる訝しげな視線。
この男が何をそこまで警戒しているのか分からなかった。
人間観察が趣味にしてももう少し上手く出来ないものか。
穴が開いたら責任取ってもらおう。
「にゃー」
「何か呼んでるみたいだけど、先輩も触ってあげたら?」
「………」
すると男は無言のまま視線だけを強めて俺を威圧する。
「え、何?」
そんなに威圧されても困るんだが。
この男にはオーラがある。
威圧的で冷たい。普通の人とはどこか違う何かが。
「……何故、俺が年上だと分かった?」
何故って。
「何となく」
男の眉がピクッと動く。
どうやら俺の返答に納得していないようだった。
「強いて言えば顔かな」
「顔?」
「だってアンタの顔老けてるし」
「あ?」
あ、言い方間違えた。
「か、格好良いから!だから大人っぽく見えたんだよ!」
「………」
大人っぽく見えたのは嘘じゃない。
男は黒髪のショートにオッドアイの俗に言うイケメンフェイスだ。
会長同様綺麗過ぎて何か作り物みたいな顔している。
そして時たま感じる威圧的なオーラに飲まれそうになる。
「それだけか?」
「それだけだよ。俺アンタのこと知らないし」
あ、アンタはダメか。
一応先輩なのに。
「俺を引き止めた理由は?」
「先輩の質問にちゃんと答えてなかったから」
まあ、引き止めるほどの答えじゃなかったが。
「……本当に、コイツを追って来ただけなのか?」
「だからそう言ってんじゃん」
先輩は相当警戒心が強いようだ。
まるで人間を敵視する野良猫のように無遠慮に手を出そうものなら危うく引っ掻かれてしまう。
どうやら俺は中々面倒臭い奴を引き止めてしまったらしい。
「にゃー?」
「なあ、お前からもご主人様に言ってくれよ」
「にゃっ」
「そうそう」
以前頼稀に“暴走族ホイホイ”と言われたことがあったが強ち間違いではないらしい。
但し暴走族じゃなくて面倒臭い奴に限るけど。
「……コイツが、俺以外にこんなに懐いてるのを見るのは初めてだ」
不意に顔を上げると先輩は意外にも近くにいた。
一瞬野良猫の警戒心が緩んだように見えたのは気のせいか。
オッドアイの瞳と視線が交じる。
こんな風にあの色を見るなんてまるで鏡みたいだ。
あの頃はこんな風に向き合うことになるとは夢にも思わなかったな。
「コイツを助けてくれたのか?」
「何で、それを…」
新歓のことを言っているのだろうか。
でもあの場に先輩はいなかったはずなのに何でそのことを知っているのか不思議に思えた。
「独り言がでかいんだよ」
エスパーか。
何で俺が言いたいこと分かるんだ?
「お前、分かり易い奴だな」
「へ?」
「俺はエスパーじゃねぇぞ」
「な、何でっ」
「顔に書いてある」
「嘘!?」
「本当だ」
そんなわけない。
こう見えても俺は隠し事が得意だし自分で言うのも何だが結構な嘘吐きだ。
そんな俺の考えが読めるとしたらこの男はエスパー……いや、もしや宇宙人!?猫使いじゃなくて!?
えっ、え…と言葉を漏らしながら自分の顔をぺちぺちと触っていると、不意に野良猫が口角を上げたのが見えた。
それは笑顔とは違う意地の悪い笑みだった。