歪んだ月が愛しくて2
「遊馬の淹れたコーヒーはどうだい?うちでは頼稀の次に上手でね」
「……うん、いい香り」
「ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいよ」
「お、俺も手伝ったんだよ!」
「何自己主張してるの?そこまでして藤岡くんに褒められたいわけ?」
「べっ、べべ別にそんなんじゃねぇよ!俺はただ藤岡くんにコーヒーの感想を聞きたくてだな!」
「2人共ありがとう。美味しいよ」
「(ズッキューン!!)」
「お粗末様です」
「えっと…、汐はどうしたの?」
「気にしないで、いつものことだから」
「う、うん…」
よし、見なかったことにしよう。
「ふふっ、駒鳥に褒めてもらえると僕も鼻が高いよ」
「何でお前がえばるんだよ。淹れてくれたのは遊馬じゃん」
「総長の好みを習得するのは苦労しましたよ。総長の舌は無駄に肥えてますからね」
「無駄にって…、遊馬って案外口悪いんだな」
「うちでは“毒舌魔王”って呼ばれてるんだよ」
「あー……納得かも」
「分かる?いっつも俺に八つ当たりするん……いだっ!」
「八つ当たりじゃなくてその元凶がお前なんだよ」
「誰が元凶だ!この毒舌暴力魔王!」
「だから汐だって」
「俺が何したって…っ」
「それくらいにしろ。何のために立夏を呼んだと思ってる。早速説明に入るぞ」
「待ちたまえ頼稀。駒鳥には僕の口から説明しよう」
途端、アゲハの纏うオーラが一変した。
それに気付いたのは俺だけでなく“B2”の面々も表情を強張らせ背筋を伸ばした。
それからアゲハはカップを机に置いて身体の中心で両手を組み顎を乗せて話し始めた。
「まず“鬼”については頼稀から聞いているね」
「……ああ」
「その“鬼”が聖学の風紀委員だと言うことは?」
「聞いた」
「その様子だと彼等との接触はないようだね」
「俺が“鬼”に会ったのはあの時だけだ…」
『シーロちゃん』
あの男の声が耳に残って離れない。
公平を傷付けて無残に踏み躙って高笑いするあの男を思い出す度に身体の奥底から怒りが込み上げる。
『…ごめん、シロ……』
でも一番許せないのはそんな公平を守れなかった俺自身だ。