歪んだ月が愛しくて2
「君が接触した“鬼”は幹部の…「別に興味ねぇよ」
「興味がなくても聞いて欲しい。これは今後に関わる大切なことなんだ」
「………」
アゲハの表情から胡散臭い笑みが消える。
「大切なこと」と豪語するだけあってきっと俺にとっては聞かなくてはならないことなんだろうが。
(興味ない?)
……嘘だよ。
ただこの場で見っともない姿を晒したくなかっただけ。
自分で自分を制御することも出来ない情けない自分を知られたくないのだ。
「話してもいいかな?」
「………」
そう言ってアゲハは苦笑した。
多分アゲハと頼稀は気付いている。
あえて触れないところを見るとそれは彼等なりの優しさなんだろう。
暫くの沈黙の後、俺はコーヒーを一口含んで首を縦に振った。
それを了承と受け取ったアゲハは俺がこれまで避けて来た話題について話し始めた。
「あの日、君が接触した“鬼”はキョウ。あの事件で病院送りとなりつい最近まで入院していたんだがそれが最近になって退院していたことが分かった。しかもキョウは退院早々懲りずにまた街で悪さをしている」
「っ、出て、来たのか…」
その事実にカップを持つ指先が小刻みに震え出した。
『シーロちゃん』
纏わり付く卑しい声が耳から離れない。
思い出しただけで呼吸が苦しくなる。
流れる赤が、呻き声が、凶器が風に切れる音が、まるで昨日のことのように鮮明に蘇る。
そして瞼の裏の浮かぶのはいつだって真っ赤に染まった公平の…―――。
「獣が檻から逃げ出した。狙いは君だ」
「、」
ギュッと、下唇を噛み締める。
「藤岡くん…」
様々な視線を感じる。
でも今の俺にはそれすら気に留める余裕がなくて、過去の忌まわしい記憶から逃れるために荒い呼吸を繰り返すことしか出来なかった。