歪んだ月が愛しくて2



頼稀Side





「珍しく感情的じゃないか」



汐と遊馬が立夏を連れて管理人室を出た後、俺はアゲハさんに呼び止められた。



「本当のことを言ったまでです」

「確かに君の言い分は最もだ。彼にもいい加減理解してもらわなければ困るからね」

「だったら口を挟まないで下さい。俺にも俺の考えがあるんです」

「決心が鈍るからかい?」

「決心?」

「態とあんな風に言ったんだろう。“お前の正体がバレるってことは周りの奴等を危険に晒すことと同じ…”なんてよくも心にないことが言えたものだ。本当は彼を守れさえすれば他の人間なんてどうでもいいと思っているのに」

「………」



『もしお前の正体がバレたら奴等はどんなことをしてでもお前を捜し出しお前の大切にしてる奴等を利用して傷付けて餌にする。自分達の欲を満たすためなら何だってする奴等だ。つまりお前の正体がバレるってことは周りの奴等を危険に晒すことと同じなんだよ』



言い過ぎた自覚はある。
でもああ言うしかなかった。
ああでも言わなければ立夏はまた自分を蔑ろにして過去を繰り返す。
いくら覇王の影響を受けていても心に根付いたものは簡単には消えてくれない。
だから本当は立夏以外の人間がどうなろうと知ったことじゃないと思っていた。
その考えで今までずっと立夏を見守って来た。
立夏を守るためなら、もう一度本当の笑顔を取り戻すことが出来るなら俺は何だって出来た。
それが俺に出来る精一杯の償いだと信じていた。



「……そんなことありませんよ」



それなのに…、



『義務なんて、そんな言葉使う必要ないと思うよ。何を引き摺ってるのか知らないけどさ、リカだって義務なんて言葉で守られるよりも頼稀の意志で一緒にいて欲しいと思っているはずだよ』



気付かされた。アイツに。

邪魔者だと思っていたはずの未空に。



「俺だって自分の考えが全て正しいとは思ってませんよ」



未空の言葉を鵜呑みにしたわけじゃない。



『するわけないよ。俺だってリカに対する気持ちは毎日変わるもん。それと一緒でしょう』



心のどこかでずっと否定していたものを見透かされた。



『―――同情?』



(……ああ、そうだよ)



初めて父親から立夏のことを聞かされた時のあの衝撃は今でも忘れられない。
立夏の生い立ちも、立夏が受けた仕打ちも、立夏を取り巻く歪んだ環境も。
怒りと悲しみで無性に泣きたくなった。
それを「同情」の一言で嘲笑うアイツが許せなくて、殺してやりたいくらいムカついて、ずっとその言葉を否定して生きて来た。



でも本当は―――。



未空はそんな俺の心情を受け入れてくれた。

否定せずに、幻滅せずに。



あの言葉に俺は間違いなく救われた。


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