歪んだ月が愛しくて2
「……確かに、言ってくれた方が有り難いな」
「でしょう」
遊馬は鋭い。
その上できちんと理解して言葉を選んでいる。
流石アゲハと頼稀が目を掛けてるだけはある。
「藤岡くんは俺達に対して罪悪感とか持ってるのかもしれないけど、俺からしたらそんなことはどうでもいいかな。藤岡くんが“B2”を変えてくれたきっかけになったのは事実だし、総長や姫の憧れの人でもあるからね。だから少なくとも俺達には罪悪感を抱く必要はないよ。そう言うの面倒臭いし。俺はただ総長の命令通り自分の任務を熟すだけだから」
「だからそんなに警戒しないで」と言って、遊馬は終始穏やかな笑みを崩さぬまま俺の警戒心を解こうとする。
「……別に、警戒はしてないよ」
「でも信用もしていない。違う?」
「信用とか、そう言うのじゃなくて…」
『もしお前の正体がバレたら、奴等はどんなことをしてでもお前を捜し出し、お前の大切にしてる奴等を利用して傷付けて餌にする。自分達の欲を満たすためなら何だってする奴等だ。つまりお前の正体がバレるってことは、周りの奴等を危険に晒すことと同じなんだよ』
あの言葉は結構効いた。
反論なんて出来やしない。
それは俺が一番恐れていたことだから。
『…ごめん、シロ……』
また、あの言葉が蘇る。
俺のせいで傷付いて、ボロボロになった公平が脳裏に浮かぶ。
頼稀は知っているんだ。
あの日、俺達に何があったのか…。
だから頼稀はあんな風に言って俺の危機感を煽った。
もう二度と、俺があの日を繰り返さないために。
「まあ、すぐに信用してくれるとは思ってないけどね」
「……違う、よ」
その言葉に汐は首を傾げた。
遊馬も先程までの笑顔を崩して目を細めてから静かに俺の言葉を待っていた。
「本当に、信用してないとかじゃないんだ。ただ、どうしていいか分からなくて…」
「分からないって何が?総長や頼稀くんの考え?」
「いや、頼稀があんな風に言った理由は分かってるよ。それが俺のためだってことも…。それに俺の存在が周りを危険な目に合わせてるのは事実だし」
あの日、公平が標的にされたように。
「安心して。そうならないために俺達がいるんだから」
「今は信用出来なくても、いつかさせて見せるよ」
「………」
そう言って2人は俺の目の前にそっと手を差し出した。
「え、何…」
「これからも宜しく」
「友達兼護衛ってことで、改めて宜しくね」
「………」
目の前にいる2人には俺がどう映っているんだろう。
“B2”を潰した敵?
クラスメイト?
……分からない。
でも、俺には明確に見えたものがあった。
“B2”?
クラスメイト?
お目付役?
……いや、それだけじゃない。
「……頼稀は、一つだけ間違ってるよ」
「え?」
「間違ってる?」
汐と遊馬は俺の言葉に疑問符を浮かべて互いに顔を見合わせた。
ああ、どうしよう。
また増えてしまった。
「だって俺の大切な人には、汐と遊馬も入ってるんだもん」
俺の、大切なものが。