歪んだ月が愛しくて2
「……浮かれてるところ悪いけど、別に汐だけじゃないからな。そこ勘違いしないように」
「わ、分かってるよ!」
自分が都合の良い人間なのは自覚している。
だって藤岡くんはかつての敵。
恨んでも、憎んでも、どんなに足掻いても決して手の届かない存在で、行き場のない憤りを一方的にぶつけていた相手だった。
それなのに今では手を伸ばせば届く距離にいて、俺はそんな彼から目が離せないでいた。
「帰ろっか」
「……うんっ」
理由は簡単だ。
俺が立夏くんを好きになってしまったから。
「あっ、そう言えば生徒会室から抜けて来たんだった!」
「大丈夫だよ。きっと頼稀くんが上手く言ってくれてるから」
「だといいけど…」
藤岡くんへの気持ちに後悔はない。
恨んでいたけど、憎んでいたけど、でも好きになっちまったもんは仕方ない。
自分がこう言う奴だって分かってるからこそ、もう腹を括って開き直ろう。
「ほら、汐も早く行こう」
「あ、待って!」
好きだよ。
友達としての好きじゃない。
藤岡くんのことを独り占めしたいって意味の好きなんだ。
男が男を好きになるなんて普通に考えたら可笑しいんだろうけど、そこは聖学の環境に適応してたからすんなりと受け入れることが出来た。
どっちかと言うと藤岡くん(好きな人)=白夜叉ってことの方が受け入れ難かった。
でも今となってはそれももうどうでもいい。
どんなに足掻いても、どんなに悩んでも、一度自覚してしまった感情はそれがどんなに受け入れ難いものであっても、もうなかったことには出来ないんだから。
「鈍臭いな。早く来ないと置いて行くよ」
「だから待てってば。俺だけ除け者にすんなよな」
「安心して。別に抜駆けするつもりじゃないから」
「な、何をどう安心しろって言うんだよ!?」
「2人って本当仲良いよね?幼馴染みって奴?」
「悲しいことに」
「悲しいのかよ!?」
「じゃあ聞くけど、好きな子の顔見て鼻血出すムッツリと仲が良いって言われて嬉しいと思う?」
「すっ、すす好きな子って…、違うからね!俺は別にそんなじゃなくて…っ」
「見苦しいな」
「遊馬っ!」
「やっぱり仲良いじゃん」
他愛もない話をしながら3人で廊下を歩いていると、不意に藤岡くんが窓の外を見つめて立ち止まった。
「藤お…、立夏くんどうしたの?」
「何かあった?」
「あれは…」