歪んだ月が愛しくて2
立夏Side
学生棟の窓から見えた光景に思わず足が止まった。
それは東棟の隅で集まる複数の人の群れ。
その中に見覚えのある顔を発見した。
「……ごめん、ちょっと用が出来た」
「えっ、立夏くん!?」
「どこ行くの?」
「東棟!すぐ戻るから!」
そう言って俺は汐と遊馬を廊下に残して走って階段を駆け下りた。
後ろの方で2人の制止の声が聞こえたが、心の中で「ごめん」と唱えながら振り返ることなく一目散に東棟に向かった。
目的地に到着すると、東棟横にある倉庫の裏で3人の男子生徒が西川くんを囲んで何やら揉めているようだった。
しかも西川くんや他の男子生徒は、全員野球のユニフォームを着用していて時間帯的にも部活が終わってからここに来たと言うことが見て分かる。
こんなところで着替えもせずに何をしているんだろう。
何やら話し込んでいるみたいだが……クソ、よく聞こえない。
西川くん達に気付かれないように少しずつ近付くと微かに声が聞こえて来た。
「お前さ、いつまでここにいる気だよ?」
「まさか高等部に上がっても野球を続けるとはな」
「あんなヘボ球しか投げられねぇくせによくピッチャーなんてやってるよな」
……違う。
これは、ただの揉め事じゃない。
「お前さ、自分が俺達にどう思われてるか知らないわけじゃねぇよな?」
「お前のせいで中学3年間負け続けたこと、まだ許してねぇから」
「ご、めん…。でも、僕…」
「ごめんじゃねぇんだよ!」
「俺達の3年間を返せ!」
「ご、ごめっ」
これは酷いな。
完全に八つ当たりじゃないか。
野球はやったことないからルールとかよく分からないが、チームプレイなんだから1人のせいで負け続けたってことはないはずだ。
例えそれで西川くんに非があったとしても3対1で一方的に責めるのは違うだろう。
「いい加減辞めちまえよ」
「お前なんて必要ないんだよ」
聞くに耐えない。
片方が顔見知りだから余計に感情移入しているのかもしれない。
余計なことだと知りつつも込み上げる感情を押し殺して仲裁に入ろうとした、その時。
「いらねぇのはお前等の方だろう」
その声に、俺の足が止まった。