歪んだ月が愛しくて2
「泣くな」
ビクッと、西川くんはカナの言葉に肩を震わす。
「泣くってことは、アイツ等の言葉を肯定するのと同じだ」
「え、」
「自分を否定すんな。お前は誰よりも頑張ってるじゃねぇか」
「僕が、頑張ってる…?」
「違うのか?」
「っ、」
その言葉と同時に西川くんの瞳から涙が溢れ出す。
そんな西川くんを見て、カナは呆れた顔で溜息を吐きながら頭を掻く。
「だから泣くなって言ったのに…」
「ぼ、僕が…頑張ってる?そう見えるの?」
「……ああ、見えるよ」
西川くんの涙は止まらない。
カナの言葉を皮切りに洪水のように流れ出す。
(カナ…)
カナは昔と何一つ変わらず優しいままだった。
縋りたくなるような優しさに、幸せだった頃の情景を思い出して俺まで泣きたくなった。
カナを信じられなかった昔の自分が憎い。
何一つ見落とすべきじゃなかったのに、俺は自分のことで手一杯で、カナのことや兄ちゃんのことをちゃんと見ていなかった。
俺がカナを信じていたら、自分に自信が持てていたら、こんな遠回りはしなくて済んだのかしれない。
「おいおい転入生さ、いきなり入って来て邪魔すんじゃねぇよ」
「俺達はコイツに自分の存在意義を分からせてやってんだからさ」
「存在意義?」
「コイツは野球部のお荷物なんだよ」
「西川のせいで俺達は中学3年間負け続けて散々な目に合わされたんだ!」
「全部西川のせいなんだよ!」
「こんな奴、最初からいなければ良かったんだ!」
途端、過去の記憶が溢れ出す。
『貴様のせいで…―――』
『貴様のせいで、あの子は死んだんだ』
きゅっと、心臓を締め付けられたような感覚に陥る。
「はっ、は…」
視界が揺らぐ。
心臓が痛い。
呼吸が苦しい。
『貴様の存在があの子を死に追いやったんだ』
『お前さえいなければ…』
『許さないっ!』
響く叫び声。
どこまでも悲しい怒号。
泣いて、叫んで。
泣いて、叫んで。
『貴様が死ねば良かったんだ』