歪んだ月が愛しくて2
「な、何大声出してんだよ!?」
「余計なことしやがって!」
「クッソ!紀田に知られたら面倒なことになるぞ!」
「ほらほら、早く帰らねぇとおっかねぇ先公が来ちまうぞ」
いや、そんな都合良く。
「コラー!テメー等、何やってんだー!」
……本当に来たよ。
「やべぇぞ!本当に来やがった!」
「紀田が来たぞ!逃げろ!」
「クソッ、覚えてろよ!」
3人の男子生徒はお決まりの捨て台詞を残して一斉に散らばった。
ユニフォームで逃げたところで見つかるのは時間の問題だと思うのは俺だけだろうか。
「おい、俺達も行くぞ」
「え、あ…っ」
カナは西川くんの手を引いて学生棟の方へ走って行った。
そんな2人の後ろ姿を目で追いながら、俺は何とも言えない気持ちを持て余していた。
聖学でカナと再開して、カナがずっと俺のことを好きだったって言ってくれて、カナとの溝が少しずつだけど埋まっていく気がして嬉しかった。
そして今、カナの優しさに改めて気付くことも出来た。
だからあんな風に西川くんを助けたカナを見ることが出来て、本当に嬉しかった。
血の繋がらない、唯一の義弟。
自慢の家族。
でも、その反面どこか寂しい気持ちにもなった。
嬉しい。寂しい。
一言で言うと、複雑な気持ち。
「これが弟離れって奴か…」
俺も、いつか兄ちゃん離れすることが出来るだろうか。
自分ではあの家を出た時点で兄ちゃん離れしてるつもりだったが、ふと思い出した時に感じる、切なさ、恋しさ。
ああ、やっぱり出来てないか。
出来るわけない。
この気持ちに区切りを付けるまでは。
出来るかな…。
一生伝えるつもりなんてないのに。
ましてや。
『お前等も、アイツと同じだ。自分が正しいと信じて何も疑わない。自分の歪んだ正義が正しいと勘違いして、無慈悲な言葉で人の心を抉る。その言葉で相手がどう思うかも考えもしないで…』
カナ。
どうして、あんなこと…。