歪んだ月が愛しくて2
「上手くいったみたいだね」
背後から聞き慣れた声がした。
その声に振り返ると、そこには先程別れたばかりの汐と遊馬がいた。
「……すぐ戻るって言ったよね?」
「でも大人しく待ってるとは言ってないよ」
「待つのは性に合わないんだよね、俺達」
「あっそ…」
2人の気配には気付いていた。
だから背後から声を掛けられても特段驚くことはなかったが、……あれには驚いた。
「遊馬にあんな特技があったとはね…」
「特技?」
「さっきの声色。どこで覚えたの?」
「ああ、さっきのあれ。別に特技ってわけじゃないけど、何となく見様見真似でやってたら覚えちゃった」
「見様見真似って…」
びっくり箱か。
見様見真似で習得出来るわけがない。
通りで頼稀が護衛役に抜擢するわけだ。
「さっきの彼が立夏くんの弟くん?あんまり似てないね」
「おい、遊馬っ!?」
「……よく言うよ。頼稀から全部聞いてんだろう」
白々しい。
信用してないのはどっちだよ。
「まあね。試すようなこと言ってごめんね。確かに弟くんのことは頼稀くんから聞いて知ってたよ。だからこそ何で立夏くんがあの弟くんのことを気にするのか分からないんだよね。だって弟とはいえ血は繋がってないんでしょう?」
「それを俺の口から言わせたいわけ?」
「出来ることなら」
「嫌だね」
「即答は傷付くな」
汐と遊馬にカナのことを知られたのはいいとして、気掛かりなのは西川くんの方だ。
このままあの野球部連中が黙っているとは考え難いし、言葉や暴力でやり返しても何の解決にもならない。
とは言え無関係な俺が横から口を挟んだら余計に状況が悪化しそうだし、西川くんの意思を無視して解決を急いでややこしくなるのは避けたいし、結局はどうしていいのか分からないでいた。
カナは、何か策があって西川くんを助けたんだろうか。
……いや、策があってもなくても関係なく飛び出しそうだな、カナの場合は。
「心配してんの?」
汐は俺の顔を覗き込んで不安げに眉を顰めた。
「汐…」
心配してるよ。
でも俺は誰の心配をしているんだろうか。
西川くん?
それとも、カナ?
「俺には、何が出来るのかな…」