歪んだ月が愛しくて2
◇◇◇◇◇
時刻は午前0時を回った頃。
大都市東都の路地裏では、今日もまた飢えた獣が狩りに繰り出していた。
「おいおい、おっさんよ。さっきまでの威勢はどこ行ったー?」
「も、ゆる、し…っ」
「うわっ、コイツしょんべん漏らしてんじゃん」
「テメッ、汚ねぇの撒き散らしやがってどうすんだよこれ!弁償しろや!」
「ヒィッ、ご、ごめ」
「気持ち悪ぃんだよ!」
ガンッと、人気のない裏路地に容赦ない打撃音が響き渡る。
しかしいくら殴っても、いくら声を上げても、そんな些細な音に振り返る者は誰もいなかった。
この街ではよくあること、見ず知らずの人間にとってはその程度のことでしかなった。
そんな現状を良いことに、男は仲間と共に目の前で蹲る中年男を踏み付けながら高笑いが止まらなかった。
人をクズを見るような目で見ていたくせに、今ではすっかり怯えきって芋虫のように地べたを這いずり回る中年男の姿が滑稽で堪らない。
ああ、いいね。
楽しいね。
愉しくてたまんねぇよ。
だから弱い者イジメはやめられない。
人を見下した目で蔑む連中を甚振る行為は、男の支配欲と征服欲を満たしてくれた。
「おい、コイツもう動かねぇぞ」
いつの間にか中年男は気を失って地面で伸びていた。
は?
もう終わりか?
「オラ、起きろや。寝てんじゃねぇぞコラ」
「ねんねの時間にはまだ早ぇぞ」
男達はいくら呼び掛けても反応のない人形を、まるで雑草のように無惨にも踏み付ける。
普段なら水をぶっ掛けてでも起こしているところだが、生憎こんな裏路地には蛇口やホースなんて物は見当たらず、男は苛立った様子を見せる。
「クソが」
徐に黒色のフードと共に邪魔な前髪を掻き上げる。
人工的な銀髪が暗闇の中で一際目を引く。
何故ならばその色を持つ人間は1人や2人ではなかったからだ。
男がフードを取って自身の髪を晒した直後、仲間達も次々と揃いのパーカーのフードを取って自身の髪を露わにした。
その色の全てが、銀。
意図的に合わせた色はある人物を連想させた。
「おい、鞄漁ってみろよ。クリーニング代はちゃんと請求しねぇとな」
「おっ、結構持ってんじゃん。ラッキー」
「何回クリーニング出すつもりだよ」
「てか、これだけあるなら新しいの買おうぜ」
中年男の財布には結構な金額が入っていた。
それはクリーニング代と称して有り難く仲間内で山分けした。
「つまんねぇな…」
しかし、その程度では男の欲望は満たされなかった。
そんな男の独り言に仲間の1人が反応する。
「全然張り合いなかったもんな、このクズ」
「でけぇこと言うのは最初だけで、後はビビってまともに話も出来ねぇしよ」
「しょんべんは漏らすし?」
「ギャハハハ!ちげーね!」
決してお上品とは言えない笑い声が裏路地に響く。
「コイツだけじゃねぇよ」