歪んだ月が愛しくて2
「聞いた?今回の騒動で外禁になったんだって」
「みたいだな」
「それだけその族潰しとやらを警戒してるってことだろう」
「そんなに強いの?その族潰しって」
「色んな噂は出回ってるけど、俺が聞いたのは向かうところ敵なしの負け知らずで桁違いに強いって話」
「まあ、都市伝説になるくらいだからね」
「でも噂って大体話盛ってない?都市伝説自体信憑性ないし」
「それも一理あるな」
「でも白夜叉伝説は本当だ。東都でその名前を知らない奴はいないし、安易に首突っ込んだら怪我すんのは自分だから、白夜叉を知ってる奴は軽々しくその名前を口に出さない。尾鰭の付いた噂なんて以ての外だ」
「伝説?」
「つまり、華房はその族潰しを知ってるってわけね」
「えっ、いや、そう言うわけじゃ…」
「え、汐知ってんの?何で?」
「いや、だから、俺も噂程度しか…」
「それで誤魔化してるつもり?ヘタクソ。全然誤魔化せてないからとっととゲロれ」
「汐!アオのためにも白状しろ!」
「だから、あの…、えっと…」
汐は未空とみっちゃんに詰め寄られて冷や汗を掻きながら視線を彷徨わせるも、最終的にはある一点に視線を集中させて何やら目で訴えていた。
その視線の先にいた遊馬は「あのバカ…」と小さな声を漏らして深い溜息を吐く。
「うちのバカがごめん」
「いや、汐らしいよ」
汐を責めるつもりはない。
きっと汐のそう言うところが皆から愛される由縁なんだろう。
まあ、助けてもやらないけどね。
「……大丈夫か?顔色が悪いぞ」
その声に俺達は一斉に反応する。
頼稀は葵の顔を下から覗き込んで険しい顔を見せた。
「昨日、あれから寝れなかったのか?」
「目元もちょっと腫れてるね」
「大丈夫?」
「うん…。僕ならもう大丈夫だよ」
……嘘だな。
いつもより顔が浮腫んでるし、目元の隈が全然隠せていない。
「寝不足なら今日は無理すんな」
「そうだね。集中力が低下している時は怪我に繋がることもあるし」
「体育祭ももうすぐだしな」
「眠かったら授業中に寝ればいいよ」
「いや、それはダメだろう」
「何で?俺はいつもそうしてるよ」
「それはお前だけだ」
「葵、保健室行く?」
希がそう尋ねると、葵は首を左右に振った。
「……ありがとう。でも、もう本当に大丈夫だから、心配しないで」
大丈夫に見えないから皆が心配していることに、きっと本人だけが気付いていない。
葵は俺達に心配掛けまいと愛想笑いを見せるが、それが余計に俺達の不安を掻き立てていた。