歪んだ月が愛しくて2



「立夏くん」



不意に葵が俺の名前を呼ぶ。



「昨日はごめんね、突然取り乱しちゃって」

「葵が謝ることはないよ」

「でも思いっきり叩いちゃったから…。痛くなかった?」

「全然」



寧ろ痛いくらい叩いて欲しかった。

いや、それでもまだ足りないか。



「立夏くん…?」



……やめてくれ。

そんな瞳で、俺を見ないで。



憎悪や軽蔑するような視線ならまだしも、そんな不安げな顔して俺を気遣おうとしないでよ。



(逆だろう、普通…)



「どうしたの?何で…」



本当は昨日のあれが夢であって欲しかった。
だから確認の意味も込めてヤエに電話して、押し殺していたはずの弱い自分まで晒してしまった。
でも今起きていることはやっぱり夢じゃなかった。
東都で“鬼”が動き出したことも、それにアイツが気付いたことも、そして葵の友達にまで被害が及んだことも。



それも、犯人は白夜叉?



本当やってくれたよ。



葵の友達に怪我をさせたのが偽物でも、俺のせいで誰かが傷付いたことに変わりはない。





『…ごめん、シロ……』





もう二度と、あんな想いしたくなかったのに。



「何で?どうして立夏くんがそんな顔するの?立夏くんは何もしてないのに…」



何もしてない、か…。



「……何も出来なかったから、かな」

「え、」



俺は何もしていない。

何も出来なかったから、余計に苦しかった。



「り…「葵」



葵の声は頼稀によって遮られた。



「希が宿題写させてくれってさ」

「え、希くんまたやって来なかったの?」

「こ、今回は偶々だって!頼稀が腹減ったって喚くから宿題する暇がなかったの!」

「人のせいにすんなよ」

「そうだそうだ!冤罪だよ!」

「本当のことでもあるだろう!お願いエンジェル様!一生のお願いだから宿題写させて下さい!この通りです!」

「お前の一生は何回あるんだよ」

「シャラップ!」

「ふふっ、希くんの一生のお願いならいつでも大歓迎だよ」

「ありがとうエンジェル!愛してる!」

「はいはい」


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