歪んだ月が愛しくて2
『でも今回の噂はリツじゃない。あれは偽者だ』
「偽者?誰かが立夏を嵌めようとしてるってことか?」
『いや、どうやら偽者はリツのことを捜しているらしい』
「成程な…」
だから噂が大々的に広まったのか。………いや。
「……可笑しい」
偽者が東都を中心に暴れ回っていたのは本物が東都に土地勘がありその周辺にヤサがあると踏んだからだ。だから噂が街に広まるのは当然のことだが、ここは山奥にある全寮制の学園。街で広まる噂がここまで浸透するには時間が掛かるはずだ。それが今日になって一斉に噂が広まったと言うことは人為的なものだと考えざるを得ない。
『可笑しい?どう言うことだ?』
俺は自分の考えを文月に話した。
すると文月は少し考えた後「やはり…」と言葉を漏らした。
「偽者の正体は分かってんのか?」
『“鬼”だろうな、間違いなく』
「あー…」
通りで白夜叉に執着するわけだ。
いくら現役を退いてから大分経ってるとは言え東都の白夜叉伝説は有名だからな。
「奴等の住処は?」
『………』
「あん?何黙り決め込んでんだよ?」
『……これ以上お前は首を突っ込むな』
「は?今更?そこまで話しといて?」
『俺とお前では立場が違う。俺は保護者としてアイツを守る義務がある』
どっかで聞いた台詞だな。
全くどいつもコイツも似たようなもん抱えてんな。
「そんな一方的に守られても立夏は喜ばねぇと思うけどな」
『何だと?』
「お前が立夏を守りたい気持ちは俺なりに理解してるつもりだ。何たって10年来の初恋の相手だからな」
『チッ、余計なことを…』
好きで覚えてるわけじゃない。
文月が夢中になれる相手は後にも先にも立夏だけだった。
そんな相手を忘れるなって方が無理な話だ。
だから好きな奴を自分の手で守りたいって気持ちは同じ男として理解出来るし俺が文月と同じ立場でもそうしているだろう。但し相手があの立夏なら話は別だ。
「まあ聞けよ。俺が言いたいのは立夏を守りたいと思ってるのは何もお前だけじゃないってことだ」
『覇王か?』
「それもある。でもそれだけじゃない」