歪んだ月が愛しくて2
「……それで、その高屋って人はどうなったの?」
「結局、高屋は“鬼”の制裁を受けた。制裁なんて聞こえはいいが、あれは一方的なリンチだ。それを目の当たりにした白夜叉は…っ」
「キレたのか?」
俺の言葉に陽嗣は乾いた笑みを零す。
「ハッ、キレたなんてもんじゃんねぇよ。あれは破壊だ。それも一方的な。実際、俺はあの場にいなかったから分からねぇけど、応援に駆け付けた時のあの悲惨な現状を見たら震えて言葉が出なかったね。たった1人の人間にこんな芸当が出来るのかって目を疑ったさ」
「は、破壊…」
「貴方がそこまで恐れるなんて…」
「………」
陽嗣の様子からして、その言葉に嘘はないだろう。
ただ俺等の予想を遥かに上回る脅威に上手く言葉が出なかった。
「それ以来、東都で白夜叉に喧嘩売る奴はいなくなった。喧嘩売るどころか無闇矢鱈と奴の名前を口にしなくなった。あの悲惨な現状を目の当たりにして、誰もが自分達の過ちに気付かされたはずだ。何たって俺達は決して怒らせてはいけない夜叉を本気で怒らせちまったんだからな」
ゴクッと、息を飲む音がする。
当時を知らない俺等には陽嗣が体験した恐怖を本当の意味で理解することは出来ないだろう。
だが、あの陽嗣がここまで警戒する族潰し―――白夜叉。
警戒するに越したことはないな。
「それが禁句の理由か…」
「ああ。もし今回の騒動の犯人が本当に白夜叉だとしたら対策なんて一つしかねぇよ」
「一つとは?」
「夜出歩かないこと。それだけだ」
「でもさ、それって白夜叉に勝てばいいだけなんじゃねぇの?そうすれば白夜叉もいなくなって東都にも平穏が戻って来るわけだし」
「あんな化け物に勝てる奴なんてそういねぇよ。俺が知ってる奴だって勝てるかどうか…」
「誰だ?」
「“鬼”の頭」
「その人なら勝てると?」
「分かんねぇ。でも俺が知ってる奴で化物並みに強ぇ奴と言ったら奴しかいない」
「成程、伊達に東日本最強を背負ってるわけではないと言うことですか」
「そう言うこった」