歪んだ月が愛しくて2

大切なものは瞼の裏に




立夏Side





「ほらよ、スマホ」



放課後、俺は紀田先生に呼び出されて北棟の屋上にいた。
紀田先生はスーツのポケットから見覚えのあるスマートフォンを取り出して、スッと俺の前に差し出した。



「……お礼を言うべき?」

「言ってくれんの?」

「言うか、泥棒」



紀田先生の手からスマートフォンを奪い取って制服のポケットの中に仕舞う。



「お詫びにあれ頂戴」

「あれ?」



トンッと、スーツの胸ポケットの膨らみを人差し指で突く。



「コレ」

「お、まえ…」

「もーらい」



俺は紀田先生の返事を待たずに胸ポケットの中の煙草を奪い取る。



「小悪魔め…(小声)」

「ん?何か言った?」

「……何でもねぇよ」



奪い取った煙草の封を開けて、すかさず口に銜えて火を点ける。



「にっが」



久しぶりの煙草はいつになく苦く感じた。



「久々か?」

「まあ…」

「やっぱ禁煙してたんじゃねぇか」

「してないよ。でも吸ってんのバレたから少し減らしてた」

「バレたって…、まさか文月にか?」



ふぅ…と、吐き出した紫煙が宙を舞う。



「いや、覇王」



あんな約束するべきじゃなかった。
守れない約束はしない主義だったのに。



少し、期待していた。
彼等といれば、もう“黒い悪魔”に頼る必要はない。
心に巣食う悪魔を吐き出すように、彼等の傍にいれば荒んだ心を浄化してくれるかもしれないと、夢みたいなことを本気で思っていた。
でも現実はそんなに甘くなくて、俺の心は未だにあの日に囚われている。
俺の心に巣食う悪魔はそんなにも根深いのだろうか。



「どいつもコイツも過保護だね」



紀田先生の呆れた声に何気なく顔を上げる。



「……誰のこと言ってんの?」

「覇王と文月、とその他大勢」

「略すな」

「因みに俺も入ってるから」



ウインクすんな。
無駄に決まってるからムカつく。



「アンタが心配することなんて何もないよ」

「そいつはどうかな」



その言葉が妙に引っ掛かった。


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