歪んだ月が愛しくて2
屋上のアスファルトに煙草を捨てて足裏で火を消す。
「……何か、聞いた?」
紀田先生に余計なこと言うとしたらアイツしかいない。
「聞いた、って言ったら?」
不意に紀田先生の手が伸びて俺の髪に優しく触れる。
この人はどっちなんだろう。
自分が作ったチームに手を出した俺を憎んでいるか、若しくはアゲハみたいな少数派か。
普通に考えたら前者だ。自分の大切な場所を壊されて何とも思わない人間はいない。実際アゲハだって俺に言えない感情を内に秘めているかもしれない。
紀田先生は俺のことをどう思ってるんだろう。
『まあ、結論から言うと勝手に過小評価すんなってことだ』
もうあんな風に笑い掛けてはくれないかもしれない。
この場所にももう来ない方がいいのかもしれない。一般的な先生と生徒の関係さえ保てさえすれば。
(ちょっと寂しいけど…)
でも距離を置くなら今しかない。
「余計なことしなくていいから」
ピタッと、紀田先生の動きが止まった。
「何もしないで…」
もし万が一紀田先生がアゲハみたいに少数派だったらこれ以上巻き込んでしまったら可哀想だ。
血を流すのも、傷を作るのも俺だけで十分だ。
はぁ…と、頭上から大きな溜息が聞こえる。
「俺も大概甘ぇな」
ふわりと、紀田先生の大きな手が再び俺の頭を撫でる。
一瞬だけ兄ちゃんのことを思い出して鼻の奥がツンとした。
「心配すんなって方が無理な話だわ。お前は俺の大切な教え子だ。それに俺は文月の幼馴染みで“B2”の初代。間接的だけど一応関係者だからな」
ああ、やっぱり文月さんから聞いたのか。
あのお喋りめ、余計なことしやがって…。
「心配くらいさせろよ」
不意に紀田先生の手が俺の後頭部に回されてその大きな胸板に顔を押し付けた。
「子供は大人に頼るもんだぜ」
そう言って紀田先生はもう片方の腕を俺の背中に回しポンポンと軽く叩いてあやそうとする。
大人しく口を閉ざした俺の横を生温い風が吹き抜ける。
「俺のこと聞いたなら、何で…」
「喧嘩の勝ち負けに恨みっこはなしだぜ」
「そんな簡単に割り切れるわけっ「割り切ってねぇのはお前だけなんだよ」
グッと、言葉に詰まった。