歪んだ月が愛しくて2
屋上のアスファルトに煙草を捨てて足で火を消す。
「……何か、聞いた?」
紀田先生に余計なこと言うとしたら、アイツしかいない。
「聞いた、って言ったら?」
不意に紀田先生の手が伸びて、俺の髪に優しく触れる。
「余計なことしなくていいから」
ピタッと、紀田先生の動きが止まる。
「何もしないで…」
これ以上、誰も巻き込みたくない。
血を流すのも、傷を作るのも、俺だけで十分だ。
はぁ…と、頭上から大きな溜息が聞こえる。
「俺も、大概甘ぇな」
ふわりと、紀田先生の大きな手が再び俺の頭を撫でる。
一瞬、兄ちゃんのことを思い出して鼻の奥がツンとした。
「心配すんなって方が無理な話だわ。お前は俺の大切な教え子だ。それに俺は文月の幼馴染みで“B2”の初代。間接的だけど一応関係者だからな」
ああ、やっぱり文月さんから聞いたのか。
あのお喋りめ、余計なことしやがって…。
「心配くらいさせろよ」
不意に紀田先生の手が俺の後頭部に回されて、その大きな胸板に顔を埋めた。
「子供は大人に頼るもんだぜ」
そう言って紀田先生はもう片方の腕を俺の背中に回し、ポンポンと軽く叩いてあやそうとする。
大人しく口を閉ざした俺の側を生温い風が吹き抜ける。
「俺のこと聞いたなら、何で…」
「喧嘩の勝ち負けに恨みっこはなしだぜ」
「そんな簡単に割り切れるわけっ「割り切ってねぇのはお前だけなんだよ」
グッと、言葉に詰まった。