歪んだ月が愛しくて2
不意に会長は俺の手を取って凝視する。
「………」
「な、に…」
すると何を思ったのか、会長は俺の手の甲に口付けを落とした。
「は…、」
何、を。
まるで壊れ物を扱うような優しい口付けに思わず言葉を失った。
切れ長の黒曜石と薄い唇が、嫌でも目に留まる。
「俺がイライラしてんのは、お前を疑ってるからじゃない」
その声に覚醒して会長に握られていた手を引っ込めると、会長は更に険しい表情を見せて眉間の皺を深く刻んだ。
「……九條院なら、いいのかよ」
「え?」
アゲハ?
何でそこでアゲハが出て来るわけ?
「九條院が相手なら、お前は拒絶しねぇのか?」
「待って…、話が見えない。何でそこでアゲハが出て来るわけ?」
「見た」
「見た?見たって、何を…」
ツーッと、嫌な汗が額に伝う。
「九條院がお前の手にキスしてるのを」
「っ!?」
み、られてた…。
え、嘘?
いつ?どこで?どの場面を?
心当たりが多過ぎて分からない。
ああ、もう嫌だ。
最悪。マジで最悪過ぎる。
よりによって会長に見られてたなんて終わった。
アゲハの奴、後で絶対絞めてやる。
「九條院が好きなのか?」
「はぁ!?」
突拍子もないことを言われて思わず声を荒げる。
「違うのか?」
「当たり前だ!何で俺がアゲハを…っ」
「だったら何でアイツはお前に触れる?お前も何で拒絶しない?」
「何でって、それがアゲハなりのコミュニケーションだからで…。てか、やめろって言ってもやめないから諦めてるだけ」
「……誰にでもああ言うことさせてんのか?」
「させるか!アゲハくらいだよあんなことすんのは!大体、アゲハにキスされたぐらいどうってこと…っ」
瞬間、俺の視界を何かが覆った。
それはチュッと音を立ててすぐに離れたが、唇に残る感触が全てを物語っていた。
「な、な…っ」
「キスくらい、どうってことねぇんだろう?」
不機嫌そうな低い声が、とんでもないことを言う。
どうってことないなんて、……嘘だ。
いや、改めて思い知らされた。