歪んだ月が愛しくて2
「伝言はまだございます。三つ、足を用意したからそれを使えと」
「足?何のこ…っ」
ガサッと、不意に足音が聞こえた。
その音に警戒して咄嗟に哀さんを背中に隠す。
「ご安心下さい。敵ではありません」
「え、」
足音は段々と近付いて来る。
黒い人型が月明かりに照らされて、徐々にその姿が晒される。
「誰が足ですか?」
「な、何で…」
そこに現れたのは頼稀だった。
でも頼稀は俺の問いに答えることなく、隣にいた哀さんが代わりに答えてくれた。
「私がお呼びしました」
「哀さんが?でも、何でそんなこと…」
「主人の指示です。それと本人の希望でもありますが」
「希望?」
ゆっくりと頼稀に視線を向ける。
「………」
でも頼稀は何も言わなかった。
互いに目を合わせたまま、何も…。
「彼が今回の立夏様の運転手兼ボディーガードです。それとストッパー役も兼ねて」
「成程ね…」
要は俺が確実に帰って来るための保険ってわけか。
文月さんが考えそうなことだ。
「立夏様にもしものことがあってはいけませんから」
「はぁ…」
だからって頼稀に頼むことないのに。
「行くぞ」
「あ、うん…」
「立夏様」
俺は頼稀に手を引かれて歩き出そうとした時、哀さんが俺を呼び止めた。
「最後に、これだけは何があっても守って下さい」
「何ですか?」
「絶対に無茶なことはしないで下さい」
「………」
哀さんは悲しみと憂慮を浮かべた目を細めて俺を見つめる。
「立夏様を大切に思っているのは主人だけではありません。私も立夏様のことを…」
「哀さん…」
哀さんはそっと俺の手を両手で包み込む。
その女性らしい柔らかい両手から優しさまで流れ込んで来るように思えた。
「お気を付けて、いってらっしゃいませ」
「……はい。行って来ます」