歪んだ月が愛しくて2
不意にカウンターの中にいる男と目が合った。
すると男はにこっと微笑んで「立ち話もなんだしこっちに座りなよ」と言って俺達を店内に招き入れた。
その言葉にハッとして周囲を見渡すと既に店内には数人の客が酒を片手にひっそりと座っていたが、俺達の存在を認識した途端何やら落ち着きのない様子で酒の入ったグラスを空にしていたのが見えた。
俺達は目立たないように入口から一番遠いカウンター席の椅子に座った。
「何がいい?酒?」
「いや、俺は…」
「アイスコーヒー二つで」
「おんや、いつものはいいのか?」
「単車で来てますしそもそも遊びに来たんじゃないので。分かってますよね?」
「はいはい。アイスコーヒー二つね」
こんな場所でアイスコーヒーなんて場違いにもほどがある。
それなのに男は嫌な顔一つ見せず作業に取り掛かった。
暫くするとカウンターの中から縦長のグラスに入ったアイスコーヒーが出て来た。
「はいよ、お待ちどうさん」
「……どうも」
頼稀は平然とした顔でグラスを受け取りストローに口を付けた。
その様子を横目で見ながら俺は恐る恐るコーヒーを口に含んだ。
「あ、美味しい」
自然と口から漏れた言葉に男はカウンターから身を乗り出して食い付いた。
「マジ!?マジでそう思う!?」
「え、はい…。アイスなのに香りも良くて美味しいです」
「よっしゃ!」
嬉しそう…。
何だか子供みたい。
この人、黙ってると結構なイケメンなのに笑うと子供っぽく見えるな。
「ここ夜はバーやってるけど、日中は喫茶店だからコーヒーの味は本格的だぞ」
「あ、通りで」
「いんや嬉しいこと言ってくれるね。最近の若い子は酒ばっかでコーヒーなんて飲まねぇからこの香りを分かってくれる人はどっかの変態くらいかと思ってたよ」
「変態?」
「人の主を変態呼ばわりしないでもらえます?否定はしませんけど」
「「しないんかい」」
やっぱりアゲハのことか。
アイツ、舌が肥えてるって言ってたしな。
「君もコーヒー好きなの?」
男はカウンターに頬杖を付きながら俺に問い掛ける。
「……好きでも嫌いでもありません」
「あははっ、何それ!全然答えになってないんだけど!」
「普通です」
「コイツ、見た目に寄らずコーヒー通なんですよ」
「喧嘩売ってる?」
「まさか」
「へー、そいつは知らなかったな。俺のデータにもなかったし」
……ん?
データ?
「でしょうね」
俺は男の言葉に疑問を抱く。
そんな俺の隣で頼稀は平然と会話を続けていた。
「ね、データって…」
不思議に思い頼稀に疑問を投げ掛けると男がカウンターの中から予想外の言葉を口走った。
「白夜叉のデータだよ。俺こう見えても情報屋なんだよね」
「………は?」