歪んだ月が愛しくて2
「じゃあ約束はちゃんと守らないとな」
そう言って結城さんはカウンターの奥に入って行く。
結城さんの姿がないことを確認して俺は小さな声で頼稀に尋ねる。
「……なあ、結城さんって何者?」
「情報屋」
「それは聞いた」
「マジシャン兼マスター」
「それも聞いた。そうじゃなくて、何て言うか…」
只者じゃない人だと思った。
上手く言葉に出来ないが嫌な感じじゃなくて不思議な感じで。
「結城さんのことで俺が話せることはもうない」
「……それは知ってるけど話せないってこと?」
「今は、まだその時じゃない」
「………」
その時が来ることなんてあるのだろうか。
別に結城さんのことを嫌っているわけじゃない。
ただ100パーセント信用出来るかって言われたら多分出来ないからそう言う意味では結城さんのことを警戒してるんだと思う。
……いや、知りたいのか。あの人が誰でどんな人物で、あの寂しいそうな顔と作り笑顔の理由を。
「ただこれだけは言える。あの人はお前の味方だ」
「味方?」
「お前の不利になることはしない。危険な目にも合わせない。あの人もお前のことを守りたいんだ…」
「……何それ、断言出来んの?」
「出来る」
「………」
それなのに求めてない答えまで返って来てしまった。
頼稀が言うと一々大袈裟に聞こえるのは俺だけだろうか。
「おい、聞いてんのかよ」
「はいはい、聞いてますよ」
それから結城さんは5分もしないで戻って来た。
その手には数枚の資料を持っていた。
「お待たせ。持って来たよ」
頼稀は結城さんから資料を受け取ると黙々とそれに目を通した。
「……成程。だから態々こっちまで来させたんですか」
「いいだろう、ついでにさ」
「それならそうと言って下さいよ、紛らわしい」
「手間を省いてやったんだよ。逆に感謝してもらいたいくらいなんだけど」
「しませんよ」
「あ、やっぱり」
2人は俺を除け者にして何やら言い合いを始める。
でも何話してるのか分かんないから口挟みたくても挟めない。
「おかわりいる?」
「あ、いや…大丈夫です。それよりも奴等の情報は…」
「それなら頼稀に渡したよ。これから動くつもりなんじゃない?」
「動くって…」
「奴等の目的は間違いなくお前だ。つまり奴等はお前が現れそうなところに現れる」
「俺が現れそうなところ?随分と曖昧だな」
「考えても見ろ。これまでの襲撃現場は白羊と双魚と天秤に集中している。ここは…」
「………あっ」
「やっと思い出したか」
「この3地区は以前君の目撃情報が一際多かった地区だ。そして今回奴等が現れる可能性が高いのはここ」
「ここ…?まさかこのバーに?」
「早とちりすんな。ここって言ったのはこの金牛全域だ。奴等はこの地区のどこかに現れる」
「でも何で金牛?俺ここに来たの初めてなんだけど」
「それはここがうちのシマだからだろうな」
「“B2”のシマだから?」
嫌な汗が額に伝う。
「それって…」