歪んだ月が愛しくて2



「お前達がここに来るのは分かるが、何で姫まで連れて来る必要がある?」

「あら、私がいると何か不都合なことでもあるわけ?自分達だけ白夜叉様を独り占めするなんて許さないわよ」

「そんなんじゃありませんよ」



そうそう、正にお姫様のような女の子………ん?



「姫?」



頼稀と彼女の顔を交互に見つめると、突然彼女は俺の前に跪いた。



「お初にお目に掛かれて光栄です。私、九條院天羽(くじょういんつばさ)と申します。以後お見知りおきを」



そう言って彼女は俺の手の甲にその小さな唇を落とした。



「な…っ!?」



突然のことに、俺は咄嗟に手を引いて椅子から立ち上がる。



……待てよ。

こう言うの最近もあった気がする。

いや、最近って言うかついさっき。





『キスくらい、どうってことねぇんだろう?』





どうってことないだって?



そんなの嘘だ。撤回する。

だからもう会長の影をチラつかせないでくれ。お願いだから。



赤面する俺を見て、彼女はクスッと可憐に微笑み、平然とした様子で言葉を続ける。



「いつも兄達がお世話になっております」

「あ、兄…?」



誰かと間違えているのか。
いや、俺を白夜叉と呼んでいたから人違いではないんだろうが、全くもって心当たりがない。



「ああ、感激ですわ!こんなところで白夜叉様にお会い出来るなんてまるで夢のようです!私、ずーっと白夜叉様のことをお慕いしておりましたの!」



彼女はキラキラと目を輝かせながら勢い良く俺の顔に自身の顔を近付けて見入るように俺の顔を凝視した。
斯く言う俺はそんな彼女の破天荒ぶりに戸惑うことしか出来なかった。



「ど、どうも…」



普通、女性が男の手にキスなんてするだろうか。
……いや、しない。絶対にしない。
一瞬、どこぞの変態と被って見えてしまった。
それと同時に先程までの会長とのやり取りが一気に蘇って来た。



(誰にでもあんなことさせるかって?)



させるかよ。

あんなことを許すのは…。



「ひ、姫様!いけません!そんなことをしては…っ」

「何がいけないって言うの?私はただ白夜叉様に対して敬意と忠誠を誓っただけよ」

「で、ですがっ」

「副隊長、今の姫に何言っても効果はありませんよ」

「そうそう。姫も総長と一緒で白夜叉の大ファンなんだから」

「それは、そうだけど…」



初対面の男は彼女の勢いに負けてオドオドしていた。
遊馬に“副隊長”と呼ばれていたが、まさか…。


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